「『国民一斉検査』を前提とした準備は不可能だったと思われます」
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の山岡昇司教授(ウイルス制御学)は8日、取材に対し、コストやメリットなどを考える以前の問題があるとする。「『国民一斉検査』は非現実的であり、それに限られた予算と人的資源を使うより、他にすべきことがあると考えます」とし、理由として(1)現検査能力では時間がかかりすぎる(2)検査時点での陰性はその後の非感染を意味しない(3)医療・宿泊施設の現収容能力では、陽性者への対応ができない(4)今後重要なのは、死者を減らすことである――の4点をあげた。
(1)は、「COVID-19の流行についてはこれまで、経済との綱引きの中で様々な意見が出され、その中には楽観的見通しもあったことは事実で、検査体制も医療体制もまさかの事態に備えるよう整備されてきたとは言えません。そもそも、第1波、第2波の際に第3波の規模を誰がどこまで正確に予見しえたか? そのような状況下で、『国民一斉検査』を前提とした準備は不可能だったと思われます。検査能力をさらに拡充すべきであることは明白ですが、検査能力とともに医療体制も拡充しなければ意味がない」という。
(2)はやはり、「SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)の感染伝播効率が非常に高いことを考えれば、『国民一斉検査』は仮に実現したとしても『ある時点での調査』くらいの意味合いしかないでしょう」と、有効性に疑問を示した。
(3)の医療機関や宿泊施設の収容力については、「COVID-19は『2類感染症相当』という枠組みがいまだに存在し、民間病院が8割近くを占める日本の現状で、公的医療機関、保健所の業務が破綻しつつあります。1日7000人近くの新規感染者数は深刻な数字ですが、現検査体制下でこれはおそらく氷山の一角にすぎず、実際の新規感染者数はこれよりはるかに多いでしょう」としたうえで、「仮に『国民一斉検査』を実施できたとしても、その結果を引き受ける医療体制が今の日本にはありません」と、受け入れ能力に限界があることを指摘した。
そして(4)の「死者を減らす方法」は3つ。「特効薬と有効なワクチンの開発、医療体制の整備です。特効薬ができない限り、死者を減らすためには感染者を減らさなければならず、そのためには有効なワクチンの接種が必要です。COVID-19重症者を救うだけでなく、他の生死にかかわる疾患についての医療水準を維持することも喫緊の課題です」との見解を示した。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)