緊急事態宣言が発令され、2021年1月18日に召集される通常国会での焦点は、緊急事態宣言の根拠になっている新型コロナ特措法の改正だ。菅義偉首相は1月4日の記者会見で、改正案の意義を「給付金と罰則をセットにして、より実効的な対策を取るため」と説明しているが、野党の一部からは、「罰則」の実効性を疑問視する声もあがっている。この点をめぐる論戦が展開されそうだ。
そんな中で「ロックダウン(都市封鎖)違反に対する罰則の有効性」について論じた論文が米学会誌に掲載された。ロックダウンを行ったドイツで、罰則を導入した州とそうでない州とで、感染の広がり具合を比較した論文だ。
ロックダウンで罰金導入した州と、していない周辺州を比較
論文は、米公衆衛生学会の米公衆衛生ジャーナル(AJPH)20年12月号に「ドイツでの新型コロナ大流行におけるロックダウン違反に対する罰則の有効性」と題して掲載された。著者は、蔚山大学医学部のパク・ヒュンジン氏と韓国陸軍士官学校のチェ・セヒュン氏。
ドイツでは、南部のバイエルン州が2020年3月20日から、通勤や通院など、必要最小限の外出しか認められないロックダウン(都市封鎖)に突入。同州では、違反した人には最高で2万5000ユーロ(約318万円)の罰金刑が設けられた。周辺の州でもロックダウンが行われたが、しばらく罰金の導入は見送られ、導入が最も遅かったのがテューリンゲン州の5月12日だった。
日本で検討が進んでいる改正案の罰則の対象は事業者を念頭に置いているのに対して、バイエルン州の罰則は、住民に対する外出禁止の徹底を重点においている。現地の公共放送「バイエルン放送」のウェブサイトでは、どういった場合に外出可能かの例を挙げながら、
「違反すればいかなる人でも、最大2万5000ユーロの罰金を課される可能性がある」
としている。
学校、店舗、バーなどの閉鎖やマスク着用の義務化といったロックダウンの内容はバイエルン州とそれ以外で、ほぼ同じ条件だった。そこで、バイエルン州がロックダウンに突入する直前の3月15日から、他の州でも罰金が導入される直前の5月11日の期間について、ロベルト・コッホ研究所がまとめた感染状況データを比較した。
その結果、感染者1人が何人に感染させるかを表す「実効再生産数」(1より大きいと感染が拡大し、小さいと縮小していることを示す)は、バイエルン州は他の州よりも0.32低く、新規感染者数の伸び率も、バイエルン州の方が6ポイント低かった。バイエルン州以外の州でも、ロックダウンにともなって実効再生産数は低下傾向になり、新規感染者数も減少したが、バイエルン州の方がさらに効果が出た、ということだ。ただ、高齢者については違いが認められなかったといい、
「高齢者は移動しない、という特徴によるものではないか」
とみている。
「適切な政策の執行がなければ、法律を守っている市民だけが被害を受ける」
新型コロナ特措法の改正案に盛り込まれる具体的な罰則の内容や、罰金の額はまだ固まっておらず、対象の性格の違いもあり、この論文の内容がどの程度日本に当てはめられるかは不明だ。ただ、著者の2人は日本の状況を念頭に
「経済的罰則によって、コロナ禍での制限がさらに実効性を持つと確信している。多くの人々が政府の指針を軽視しており、適切な(政策の)執行がなければ、長引くコロナ禍で法律を守っている市民だけが被害を受けることになる」
とするコメントをメールでJ-CASTニュースに寄せている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)