富士フイルムホールディングス(HD)の株価が乱高下する一幕があった。
厚生労働省の専門部会が2020年12月21日に富士フイルムHDの抗インフルエンザ薬「アビガン」を新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認することを見送り、継続審議としたことで急落したものの、証券会社による投資判断格上げなどを受けてすぐさまその下落分の半分以上を回復した。
すぐに下落分の半分まで戻る
アビガンは富士フイルムHDの子会社、富士フイルム富山化学が開発した。現場の判断によってコロナ患者に投与された例もあり、メディアでもしばしば取り上げられるなど知名度は高い。ただ、国内ではインフルエンザ向けに承認されたもので、科学的根拠が十分ではないとされてきた。国内では富士フイルムHDが治験を実施し、「一定の効果がみられる」として10月に新型コロナウイルス感染症の治療薬としての承認を申請したが、「有効性を明確に判断することは困難」というのが2020年末時点の専門部会の見解だ。
これを受けて22日の東京株式市場では、富士フイルムHDの株価が急落。一時前日終値比6.2%(341円)安の5201円と2カ月ぶりの水準まで下げた。当日高値が前日安値を下回り、チャート図に「窓をあける」動きが描かれる節目の展開だった。しかし、翌日から株価は戻り25日には一時、前日終値比2.6%(136円)高の5465円まで回復、同じ週内でジェットコースターのような流れだった。この日の材料は大和証券のリポート。「ヘルスケアを軸に中期的な成長期待は高い」などとするもので投資判断を5段階で真ん中の「3」から上から2番目の「2」に格上げし、目標株価も5200円から6200円に引き上げた。年明け1月4日も、5400円台をキープした。
この間の投資家心理としては、もともと高値警戒感がある中でアビガン承認見送りをきっかけにあわてて利益確定売り→しかし数に限りがある成長を見込める日本企業であるだけに買い材料をきっかけにむしろ今はお買い得ではないかと買いに走る......ということのようだ。
ヘルスケア事業にはほかにも好材料
実際、業績はコロナ禍にあって全体として健闘している。野村証券が11月20日に目標株価を6200円から6500円に引き上げたリポートで端的に「ドキュメント(オフィス向け複合機等)の回復は鈍いがヘルスケアの好調で相殺」と指摘した。
2020年9月中間連結決算をみると、売上高は前年同期比11.9%減の9973億円、営業利益は38.6%減の564億円。かつての主力商品、写真フイルムの需要蒸発により、富士フイルムHDは今や「ヘルスケア&マテリアルズ(電子材料等)」部門と「ドキュメント」部門が2本柱。このうちヘルスケア&マテリアルズは売上高が前年同期比3.9%減、営業利益は1.6%増で、ドキュメントは売上高15.5%減、営業利益は48.4%減だった。これにより、営業利益額はヘルスケア&マテリアルズがドキュメントを上回った(前年同期はドキュメントの営業利益額の方が多かった)。
ヘルスケアについては特にバイオ医薬品の製造・開発を受託する「バイオCDMO」事業が好調だ。写真フイルムで培った生産管理の技術が生かされているといい、売上高1000億円の目標を今期(2021年3月期)に1年前倒しで達成する見通しだ。アビガンの承認見送りは多少痛いが、ヘルスケアには他にも画像診断や再生医療など今後に期待できる事業がある。事務機器やカメラだけではない強みが投資家を引き寄せている。