外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(30)歴史家・ 磯田道史さんと考える「過去の知恵」

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   近代最悪の被害をもたらした災害と言えば、誰もが1923(大正12)年に10万人以上の死者・行方不明者を出した関東大震災を思い浮かべるだろう。それは正しくない。1918~20年に流行した「スペイン風邪」ではその4倍以上、45万人もの死者が出た。なぜ歴史は埋もれたのか。歴史に学ぶべき「知恵」とは何か。歴史家・磯田道史さんにうかがった。

  •    (マンガ:山井教雄)
       (マンガ:山井教雄)
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見抜いたコロナ禍の展開<

   まずは以下の文書をお読みいただきたい。これ以前に何度かバージョン・アップされているが、この文書が書かれた日付は2020年4月21日である。

   新型コロナ終息までのロードマップ・イメージ(未発表)   磯田道史

   未来のことは誰にもわかりませんが、想定しないことには計画がたちません。歴史家の目から見た今後の 新型コロナウイルスの展開イメージを書いておきます。

   現在、我々は、新型コロナウイルス第1波に 襲われております。

   イタリアやアメリカのように、とんがり帽子型の感染曲線だと、約2カ月ちょっとで第一波が弱まる。日本のように何らかの免疫抵抗力があるか、感染の遅滞作戦がある程度成功した場合、陣笠型の感染曲線をとると、3カ月から4カ月で第一波が弱まる。つまり、日本は3月終わりに感染が激増したので、6月中は無理で、7月8月までは終息しないとみるべきです。5月の連休に外出が増えて長引いたら、8月初旬、そうでなければ7月上旬にはかなり感染数は減ってくることが期待できると思われます。

   これから、未来になにが起きるでしょうか。 これから5月から夏に、世界で医療関係者から一般の人まで抗体検査で免疫確認が始まって結果がわかってくるでしょう。

   中国やイギリス・ドイツが先行するはずです。これらの国では今夏から、日本でも、ややおくれて一般人も抗体検査が進められる可能性があります。

   抗体検査で、長期免疫獲得者をはっきりさせて、彼らがすぐ復帰して、経済を回せるかというと、単純ではなさそうです。獲得免疫には強弱があるようです。

   中国の感染者の研究例では3割の罹患回復者は十分な抗体を得られていないということです。

   たとえ長期免疫獲得者の状況がある程度明らかになっても、かなり慎重に自粛の解除が 行われていくものと思われます。

   そして、日本でも、気温がまた下がってくる、10月以降、新型コロナ第2波への警戒が始まると思われます。 その様子は世界の感染の状況次第です。

   第2波の襲来があるかどうか。国内で制圧しても海外から反射で入ってくるかどうか。ここが課題になってくるでしょう。寒くなってくると、第2波への警戒が、世界の課題になると思います。

   9月になってこの事態が半年を超え、早い国では、医療関係者から挑戦的なワクチンの接種が始まるかもしれません。中国とイギリス・アメリカなどがリスクを恐れずこれに挑戦するでしょう。しかし、安全性の面から、われわれ日本では2021年年明けに一般人までワクチンを打つかというと、そうではないでしょう。まずは医療関係者と基礎疾患・高齢者の接種が来春からはじまる可能性があります。そして一般のワクチン接種は1年半から2年ぐらいで始まるのが予想の中間値ではないでしょうか。うまくいけば、大幅に早まる可能性もないではありません。

   困るのは、新型コロナウイルスが変異して、ワクチン開発が長期化する可能性です。新型インフルエンザ治療薬アビガンを開発した富山大学名誉教授の話では変異はあってもそれほどではないだろうということですが、どうかわかりません。それなりのワクチンは1年から1年半ほどで開発される可能性はあると思われます。

   こうして、安全性の高まったワクチンの一般への接種が行われて、国民の一定数が「ワクチンによる集団免疫の獲得」に至って、はじめて、平常時に近づいていきます。

   これがひとまずの終息となります。しかし、これは早くても来年春以降の話とみておいたほうがよい、というのが現時点の平均的な予測だと思います。

   以上が、磯田さんがお書きになった文書の全文だ。5月連休で抑えれば、いったんは収まるが、10月以降に第2波襲来の可能性があること、ひとまずの終息は早くても来年春以降になるだろうと予測するなど、8か月後の今読み返しても、その洞察には驚かざるを得ない。この文書が書かれたのは、疫学や公衆衛生の専門家の中にすら、「恐れるほどではない」との楽観論者がいたころだ。

   磯田さんは、東京都文京区目白台にある「永青文庫」の評議員を務めている。熊本藩主細川家伝来の家宝を軸に、日本・東洋美術を収集・展示・研究する美術館で、細川護熙・元総理が理事長を務める。私もその隣にある旧細川邸の和敬塾で、女優の村松英子さんが主宰する「サロン劇場」を見たことがある。

   コロナ禍の広がりがまったく見通せなかった4月、磯田さんは「永青文庫」の開館・休館や展示企画の判断の指針となるよう、ここに掲げた「行程表」を作成し、提供した。何度か手を加えたが、基本線は当初からぶれていない。

   「未発表」とあるのは、「歴史家は現在に連なる過去を研究対象とすべきで、将来を予測すべきではない」という研究者としての謙抑精神からだ。今回は私が懇願し、公表させていただくことにした。

   それにしても、4月という早い時期に、なぜここまで正確に、コロナ禍の展開の大筋を見抜くことができたのか。

   それが今回、12月23日にZOOMで行った磯田さんへのインタビューの最初の質問になった。

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