2020年、筆者も含めてほとんどの方が「大変な年」という印象を持たれるだろう。関西の鉄道界においても大逆風な年であった。一方、微かながら光があったのも事実である。今回は2020年で印象に残った鉄道ニュースを選んでみた。
近鉄「ひのとり」は国内最高級の座席が手ごろな価格で
筆者が最も印象に残った列車は3月14日にデビューした近畿日本鉄道の新しい名阪特急「ひのとり」である。
「ひのとり」で驚いたことは豪華な内装と運賃である。筆者は普通車にあたる「レギュラー車両」とJRのグリーン車にあたる「プレミアム車両」に乗車した。全座席にバックシェルが備わっており、後列に気兼ねなくシートをリクライニングできる点が印象に残った。現下の社会情勢等を考えると、車内で見知らぬ人に声をかけることさえはばかれる世の中において、口頭でのコミュニケーションなしにリクライニングできる点は価値が高いように感じる。
また「プレミアムシート」は本革仕様の座席も快適だったが、個人的には1列+2列という座席配列が気に入った。長時間にわたって乗車することを考慮すると「隣に人がいない」と思うだけでも精神的にリラックスできた。
これだけの内装でありながら、大阪難波駅~近鉄名古屋間においてプレミアム車両5240円、レギュラー車両4540円(いずれも特急券等を含める)は安い。「ひのとり」に乗車した友人に聞くと「運賃以上に内装がすばらしい」という声を多く聞き、滑り出しは上々のようだ。
プチ観光列車?な阪神5500系武庫川線仕様
JR西日本の長距離列車「WEST EXPRESS銀河」のデビューも印象的だったが、それよりもインパクトがあったのが6月にデビューした阪神電気鉄道5500系の武庫川線仕様である。
阪神電気鉄道は本線(大阪梅田~元町)でも32.1キロしかなく、近鉄や阪急のように本格的な観光列車を運行しづらい環境にある。そのためか、車両のレイアウトはロングシートがメインで、一部にクロスシート車がある程度だった。
4編成の5500系武庫川線仕様は車内外のレイアウトがそれぞれ異なり、ロングシートであっても阪神タイガースの装飾がなされるなど遊び心は満載。車内の装飾をスマホで撮る利用客を見ると、同車がプチ観光列車のように思えた。
事実、同車はイベント貸切列車として一般乗客が乗車できない武庫川線から本線への連絡線を走り、沿線住民に新たな楽しみを提供している。ついつい直通列車の動向に目が奪われがちな阪神だが、5500系武庫川線仕様の今後の活躍にも注目していきたい。
(フリーライター 新田浩之)