高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
ガソリン車を「電動車」に? エネルギー・環境政策をめぐる「国際社会の動向」

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   ガソリン車販売がなくなるという話を聞いたことがあるだろう。新車を購入しようとする人にとっては一大事である。

   こうした方針は、政府のエネルギー・環境政策の一環だ。エネルギー・環境政策は、国の安全保障にも関わる重要政策であるが、国際社会での駆け引きにもよく出てくる。一方、環境派といわれる集団も国際的に目立つし、エネルギー産業も環境派と対立しているようにみえて、両者は共存共栄にもみえなくはない。

   いずれにしても、いろいろな意見が国内外で対立・協調しながら、実際の政策は行われている。このときのポイントは国際社会の動向である。こうしたエネルギー・環境政策には、万人が納得するような解が出しにくい場合には、海外がどうなっているかでおおよその方向をみながら、進めていく。

  • エネルギー・環境政策から考える
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2030年以降どうするか

   国際社会から見ると、温暖化ガスの排出量をどうするかというのが大きな課題だ。現状は世界全体で約331億トン。うち中国27.5%、アメリカ14.8%、インド7.3%。ロシア4.7%、日本3.2%という順番だ。上位3カ国で増加分の9割程度を占めている(2018年)。

   2016年に発効したパリ協定では、温暖化ガス削減目標について、日本は2030年まで2013年比で26%カット(2005年比で25.4%)、中国は2030年までに2005年比でGDPあたりCO2排出量を60~65%カット、EUは2030年までに1990年比で40%カット(2013年比で24%)、カナダは2030年までに2005年比で30%カット、オーストラリアは2030年までに2005年比で6~28%カットとしている。なお、アメリカは2017年6月に協定離脱を表明しているが、2025年までに2005年比で26~28%カットとしていた。

   問題は、2030年以降だ。昨年9月に開かれた米ニューヨークの国連本部での「気候行動サミット」では、77カ国の首脳らが2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げるなど対策強化を表明した。ドイツなどEUは2050年に実質排出ゼロを目指す。日米中などはサミットで「2050年の排出ゼロ」を表明しなかった。

   9月の国連一般討論のビデオ演説で、中国は2060年までに実質排出ゼロを表明した。残るは、日米となった。アメリカは11月3日の大統領選次第という状況だったが、日本は、10月26日の菅義偉首相の所信表明演説で2050年の温暖化ガスの排出量実質ゼロを表明した。これは、米大統領選の結果によっては裏目になるかもしれない「賭け」だったが、環境重視でパリ協定復帰のバイデン政権になりそうなので、「賭け」には勝った状況だ。

新車販売も海外動向を参考に

   日本政府は、10月26日の所信表明演説で大きな方向性を出した。さらに、その方向性に向けて、洋上風力や水素など14の重点分野での政府計画は、「グリーン成長戦略」として年内に公表される予定だ。

   その中に、30年代半ばまでに、新車販売を電動車にするということも明記されるだろう。これも、世界各国の規制の動向を参考にしている。イギリスでは、2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止する。フランスも40年までに、アメリカ・カリフォリニア州も35年までに、カナダ・ケベック州も35年までに、中国も35年までにそれぞれ販売禁止という方向だ。

   将来の技術は誰にも読めないが、どこの国でも動き出しているので、日本も同じように動くわけだ。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。


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