小池百合子・東京都知事が、新型コロナウイルス感染症の対応にあたる医療機関のため、都内の小中学生に「医療従事者への感謝の手紙」を書くよう呼びかけると発表したが、インターネット上では「ありがた迷惑」「半強制的な感謝の手紙に誰が感動すんねん」といった声が出ている。
こうした指摘をどう受け止めるのか。都教育庁に聞いた。
「人に頼まれてやるもんじゃないだろ」
小池知事が「感謝の手紙」について話したのは、2020年12月21日の記者会見でのことだ。
「現場の医療提供体制ですが、医療従事者の皆さんの献身的な頑張りにかかっていると言っても過言ではありません。皆様方への心からの感謝の気持ちを伝えるため、都内の小中学生の皆さんに、看護師さんをはじめとする医療従事者の皆さんに感謝のお手紙、ちょうどこの時期ですから年賀状をお送りするよう呼び掛けてまいります。東京の将来を担う子どもたちから、今コロナの最前線で奮闘しておられるすべての皆様に、感謝の気持ちを届けてもらえるようにしたいと思います」
都は財政面での支援も当然行う。年末年始に患者を受け入れる医療機関に対し、重症患者1人につき1日30万円、軽症・中等症患者1人につき同7万円を支給。また、1日あたりの体制確保に要した時間に応じ、診療・検査を担う医療機関には4時間で15万円(それ以上は1時間につき3万7500円)、調剤薬局には1日8時間以上の開所を条件に、1日につき3万円を支給するとした。
しかしツイッター上では、会見直後から「感謝の手紙」についてこんな疑問の声がこだました。
「人に頼まれてやるもんじゃないだろ」
「半強制的な感謝の手紙に誰が感動すんねん」
「医療従事者に小中学生の感謝の手紙は被災地に千羽鶴と同じ」
「ありがた迷惑な気がする」
「なぜ一番我慢させられている小中学生が感謝の手紙なんて書かなくてはならないの?」
一方で、「感謝の手紙かくと気分いいし、今日本で起きてることを想像したり、相手の気持ちを汲み取って手紙書いたりすると教育的にも優しい子が増えてくれるんじゃないかな、強制かよwって言うのは簡単だけど悪くないと思っちゃうなあ」など、賛同する声もある。
医療従事者への「感謝」をめぐっては、看護管理学会の10日の声明が注目された。国民に向け、健康と医療現場を守るための慎重な行動や、医療専門職者を偏見の目で見ないよう求めており、さらに「私たちは自分の仕事を全うするだけですので、感謝の言葉は要りません。ただ看護に専念させてほしいのです」とも書かれていた。
「子どもたち全員に『必ず書いてください』とはお願いしていません」
東京都教育庁の総務部教育政策課の担当者は22日、J-CASTニュースの取材に、「感謝のお手紙は、都内の公立・私立の小中学校すべてを対象にしています。私立の所管は生活文化局ですが、一緒に調整しています」と話す。
東京都の統計によると、都内には20年度現在、公立・私立の小中学校は合わせて2100校以上ある。どの学校からどの医療機関に手紙が届けられるかは「分からない」。担当者は「『医療従事者の皆様へ』という形でお手紙を書いてもらい、コロナ禍の年末年始も働いている医療従事者の皆様へ届くよう調整しています」と話す。
感謝の手紙は、都から公立小中学校の設置者である区市町村の教育委員会に伝え、各教委が学校に伝える流れ。年賀状といっても官製はがきの年賀状を使うわけでなく、はがきサイズのカードにメッセージやイラストをかいてもらう。でき上がったら各学校が都の教育委員会に送り、都教委から各医療機関に渡す。
ネットで指摘されている「仕向けてやってもらうものではない」という声に対して、担当者は「その通りだと思います」とうなずく。
「都としても、子どもたち全員に『必ず書いてください』とはお願いしていませんし、とてもお願いできません。『(最低でも)何人が書くように』といったことも一切言っていません。あくまで『医療機関の皆様を応援しませんか』という呼びかけをしています。『○年生が書こう』といったことも含め、書き方は学校ごとの判断に任せています」
「ありがた迷惑」にならないかという指摘に対してはこう話す。
「そこを考え出すと何もメッセージを送れません。また、受け取った医療従事者の皆様がお礼やお返事をする必要ももちろんありません。受け手がどう感じるか次第ですが、励みになればいいなという思いでやっています」
学校生活で我慢を強いられている子どもたちだが、感謝の手紙を書くことにはこんな意味もあるという。
「子どもたちが現在の社会状況と無関係なのかというと、そうではありません。コロナ禍で社会に対してできることを考えると、医療従事者にメッセージを送ることは1つの教育活動にもなると思っています」