一般社団法人日本ヴィーガン協会(兵庫県西宮市)が2020年秋、飢餓状態のクマがエサを求めて住宅街や人里に出没してしまうのを抑えるためとして、公園などで集めたドングリを山に届ける試みを行っている。この活動を支援してもらうためにクラウドファンディングを募ったところ、インターネット上ではクマに給餌することについて賛否の声が上がった。
J-CASTニュースは、同会の代表理事を務める三宅久美子さんと、環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室に取材を行った。
生態系乱す?賛否の声が
日本ヴィーガン協会(以下協会)は2020年3月に一般社団法人登記された団体で、ヴィーガンに関連する教育、文化、環境保全や動物愛護など幅広い分野に貢献することを目的として活動しているという。2020年10月10日、クマのエサとなるどんぐりを集め、生息地に届ける試みを開始した。この取り組みに対し8店舗のヴィーガンカフェもしくはヴィーガン対応のカフェが協力し、「どんぐりすてーしょん」としてドングリの回収を担った。しかし飲食店でドングリを管理するのは困難であるとして、協会はこの「どんぐりすてーしょん」を支援するためのクラウドファンディングを実施した。
しかしこれに対しインターネット上では、クマに人間由来の食物を学習させてしまうのではないか、産地の異なるドングリを山に持ち込むことはその地域の生態系に影響を与えてしまうのではないか、といった声が寄せられている。
協会はこうした声をどのように受け止めているのだろうか。J-CASTニュースの取材に対し12月18日、協会代表理事を務める三宅久美子さんが取材に応じた。
三宅さんはこの活動を始める前に、奥山の保全や再生を目指す「日本奥山学会」(兵庫県西宮市)で、ドングリ含め山の生態を学んだと話す。ドングリの送り先は、クマをはじめとした鳥獣被害問題の解決などに取り組む自然保護団体、一般財団法人日本熊森協会(兵庫県西宮市)が仕切る現場だとして、三宅さんら協会は現地に赴いた人から随時映像や報告をもらっているという。
もっともこうした団体の活動については、以前から賛否の声が起きていた。J-CASTニュースも2010年に、日本熊森協会の活動をめぐる論争を伝えている(「クマを救えと山にドングリまき 生態系乱すか否かで議論」、2010年11月25日J-CASTニュース配信)。三宅さんはこうした賛否の声を承知したうえで、こう主張する。
「このような声があるということを私が知って15年以上経っていますが、現実とは違う空想のお話で、ヒステリックに騒いで炎上しているだけです。(批判する人の中では)『日本の山は豊かな山であるのに、それを破壊しようとしている』という非現実的なイメージなんだなと驚きます。
実際には、ドングリ(ミズナラ)の若い木まで枯れて土壌が荒廃している異常事態。飢餓のクマがいる奥山に入ってみないと、実態は分かりません」
「すぐにもでやめたい」
日本の山は「異常」な状態にあると主張する三宅さん。この活動は山が再生するまでの一時的な取り組みであるという。非常に労力と費用が掛かるものであり、熊が飢えないくらい山が豊作になったらすぐにでも切り上げたいと、三宅さんは話す。
「こんな非常事態で国が安直にクマを殺すことにヴィーガン協会は抗議します。許すことはできないです。クマのフンは土壌再生力が素晴らしく、ただクマ愛護ではないのです。山に実りがあって、人とクマが住み分けできるようになったらすぐにもでやめたいですね」
そして人々に向けてこう話した。
「『ドングリを山に運ぶのはおかしい』というのはもっともなご意見です。この活動はいかに山の状態が異常かということを知らせることになっている。『熊がこれだけ出るということは、何かおかしいのではないか』ということを、是非この現状から目を背けずに対策を考えてほしい。国には是非、調査してもらい、放置されている杉林を改善させていってほしい。山を再生していけるように専門家と一緒に取り組んでいただきたいですね」
また三宅さんは、石川県小松市が「かが森林組合」と共に実施している資金募集「クマを森に帰そう!豊かなドングリの森づくりで、人と野生動物の共生を」を評価し、このような取り組みが増えてほしいとも語った。これは広葉樹を植えることによりクマの餌場と豊かな森をつくることで、クマが人里に降りてこなくても冬を越せるようするという取り組みで、ふるさと納税で支援を募っている。
さて人里のドングリをクマの生息地に撒くことは、クマの出没を抑えることに繋がるのか。J-CASTニュースは同日、環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室にも取材を行った。同所は、生息状況や撒くエサの種類などで状況が変わるとして「一概には言えない」と話す。
効果については「一概には言えない」
「『ドングリを撒くことによってクマの出没が抑えられるか』といった研究はこちらの承知はしていません。ただ動植物の専門家の方からはいろんなご指摘があって、集落の裏山などに散布してしまったら熊だけではなく他の動物の誘因につながる可能性があるといった話もあります」
また鳥獣保護業務室は、専門家からこのような声も寄せられているという。
「動植物の専門家からは生態系を乱すなどの問題点も指摘もされています。例えばドングリを山に持っていくのは自然のバランスを無視した餌付けになる可能性がある、クマに限らない野生動物の行動パターンが変わって人間や人里に依存するのではないか。そういった心配をする人もいます」
そして環境省としては熊などが人里に降りてこないように、公式サイト上で「環境省-クマ類出没対応マニュアル-クマが山から下りてくる-」といったガイドラインを掲示しており、誘因物の除去や環境の整備を進めるなど呼び込まない環境を作ることが重要なことだと考えている。山の再生などの問題については地域差もあり、クマとのかかわり方についても多様な意見が上がっていることから、環境省や農林水産省など国としては地方自治体を支援することで取り組んでいるとのことだった。