政府の拉致問題対策本部が北朝鮮向けに行っている短波放送「ふるさとの風」の一部で、1か月以上にわたって5年前の番組を送信していたことがわかった。
放送は、政府が委託している民間業者を通じて、国外2か所にある送信所から送信。そのうち1か所から、古い番組が放送されていた。対策本部はJ-CASTニュースの指摘に対して、誤送信は「技術的な手違い」が原因だったと明らかにした上で、具体的な「手違い」の内容については「調査中」だとしている。
ニュース解説に「『静岡県立大学』の伊豆見元教授」が登場
「ふるさとの風」は、北朝鮮による拉致被害者に対して日本からのメッセージを届けようと07年に放送が始まり、現在は1日4回、最大で同時に3つの周波数を使って放送している。内容は、拉致問題に関する集会の録音や拉致問題に関する日本政府の取り組み、ニュース解説、被害者家族からのメッセージ、日本の音楽など。20年度の予算案では、「北朝鮮向け放送関連経費」として1億6600万円が盛り込まれている。
この放送の内容に異変が起きた。例えば、12月16日22時30分に5895kHz(キロヘルツ)で流れた番組では、
「12月12日、『ふるさとの風』『しおかぜ』共同公開収録が、北朝鮮人権侵害問題啓発週間における政府行事として行われました」
というアナウンスとともに、加藤勝信拉致問題担当相がビデオメッセージで寄せたあいさつが流れた。「ふるさとの風」と、特定失踪者問題調査会が行っている対北放送の「しおかぜ」の共同公開収録は毎年行われているが、12月12日に開催されたのは15年のことだ。さらに、ニュース解説の担当として登場したのは「静岡県立大学の伊豆見元教授」。伊豆見氏は静岡県立大を16年に定年退職し、活動の場を東京国際大に移している。なお加藤氏は15年当時は内閣府特命大臣として拉致問題を担当しており、現在も官房長官と拉致問題担当相などを兼務している。
この番組内容と、「ふるさとの風」ウェブサイトで公開されているバックナンバーを比較したところ、放送されていたのは、15年12月に放送されたのと同じ内容だった。一方で、日付変わって12月17日の1時00分から9690kHzで放送された番組は、ウェブサイトで公開されている最新の番組と同じ内容だった。
J-CASTニュースは一部の番組の内容が古いことを12月17日に指摘し、取材を申し込んだが、12月18日22時30分から5895kHzで流れた放送でも、同様に15年の番組が放送された。
「12月19日から、すでに是正されている。着実な放送の実施に努めていきたい」
政府は送信所の場所を公表していないが、国際電気通信連合(ITU)の短波周波数調整会議(HFCC)が公表しているデータベースなどから、台湾・台北とウズベキスタン・タシケントの2か所から送信されていることが明らかになっている。このうち、タシケントの送信所が、問題となった5895kHzの電波を出している。
政府の拉致問題対策本部の担当者は12月21日、取材に対して
「11月9日以降、一部の放送で、技術的な手違いで古い番組が放送されていたことが確認できた。12月19日から、すでに是正されている。着実な放送の実施に努めていきたい」
などと話した。原因は「送信業務を委託している民間事業者の技術的手違い」で、その内容については「調査中」だとしている。
この問題をめぐっては、東アジア地区のテレビやラジオを研究している「アジア放送研究会」の「アジア放送月報」でも、11月9日以降にタシケントから送信された放送の一部の内容が古いことが指摘されていた。拉致問題対策本部によると、現時点で番組が古かったのが確認できているのが「11月9日以降」で、さらに以前から古い内容が放送されていた可能性もあるとしている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)