原作より大きな「劇場版の客車」
鬼殺隊が乗り込んだ客車の方は、原作マンガと劇場版で描写が異なる。劇場版の方が大型で全長が長く二段式の窓が並び、原作の方は小型な客車が描かれている。
大正時代の客車は、明治時代よりも大型化が進んだ。明治時代には車輪が2軸4輪しかない「二軸車」が多く形式も雑多だったが、大正に入ると現代と同じ4輪の台車を前後に装備した「ボギー車」が増備されてくる。中には3軸6輪の台車をはいた「3軸ボギー車」もあった。
車内の照明は明治時代の石油ランプにかわって発電機が使えるようになり電灯を導入、明るく安定した照明になった。これらは鉄道院が1910(明治43)年に規定した「基本型客車」という客車の標準的なスタイルに基づいている。「木造」「三連窓」「ダブルルーフ」が特徴で、その名の通り側面を見ると3枚で1くくりになった窓が並ぶ。ダブルルーフとは屋根が二段式になっていて、間に明かり取りの小窓が作られているのが特徴だ。
このスタイルをとどめる保存車両には、鉄道博物館(埼玉県さいたま市)に展示中のオハ31形客車がある。「無限列車編」の時代より後の1927(昭和2)年の製造だが、当時の車両スタイルがよく保存されている。劇場版の無限列車の客車も側面や車内はこのオハ31形によく似ているが、屋根のつくりが違う。厭夢(「厭」は正しくはがんだれの中に鬼がある)と炭治郎が屋根上で戦うシーンを見ると、屋根はすっきり平坦になっている。
このような通称「丸屋根」の客車は、京都鉄道博物館(京都市)で保存中のスシ28形などで見ることができる。同車は1933(昭和8)年の製造で、1932(昭和6)年から丸屋根スタイルの客車の量産が始まっていた。時代設定は大正初期でも、これら昭和初期の客車のスタイルで描かれているのが、劇場版無限列車の客車だ。客車の車体長も大正時代には「基本型客車」に基づいた17mが主力だったが、昭和に入ると大型化され、現代の電車などと同じ20mの長さが標準になった。
原作漫画の方は劇場版より小ぶりで、明治時代の二軸車のスタイルで描かれていて、明治村で運行中のハフ11形・13形・14形客車に似ている。ちなみにJR九州の「SL 鬼滅の刃」の客車は、もともと50系という1977年に登場した客車だが、58654号機とともに「SL人吉」に使われていて、レトロ調に改造されている。その際に古めかしさを演出するべく、本来必要のないダブルルーフに見えるように屋根も手が加えられた。
ただ、史実の大正時代の主力客車の保存例はほとんどない。例えば1919(大正8)年に登場し、系列形式を合わせて約3000両が生産されたナハ22000形も保存車はなく、模型の組み立てキットが発売されているにとどまる。
無限列車の描写で当時の鉄道に興味を持った方がいたら、博物館で保存車両を見学してみたり、模型で再現を試みるのも一興だろう。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)