「ガバナンス不全の弊害を招いている」
日銀のETF購入の狙い、効果はどうだろう。
まず、これは金融政策として行われている。国債を市場から買い入れると同じように、「量的・質的金融緩和は2%の物価安定目標の実現を目指すこと」という大枠のなかでの政策だ。とはいえ、長期金利が低下することで、金融機関が貸し出しを増やすほか、金融機関や投資家が株式や外国債券などリスク資産の運用を増やすことも狙っており、特に株に連動するETF購入でリスク資産への投資を促す効果を狙っているのだ。
実態としては、日銀がETFを買う→ETF価格上昇→構成する個別株も連動して上がる(上がらなければ、割安の個別株を買ってETFを売ればもうかる)――という株価引き上げ効果が大きい。実際、日銀は株価が下落した局面でETFを買っているとされ、株価安定が最大の効果ということだ。もちろん「株価が下がれば金融機関の財務体質が悪化し、貸し渋りにつながる恐れもあったので、金融システムの安定化に寄与した」(アナリスト)と評価することはできるだろう。
だが、弊害を指摘する声は強い。株式市場の「日銀中毒」ともいえる状況で、「経営がしっかりしていなくとも株価が上昇するため、ガバナンス(企業統治)不全の弊害を招いている」(市場関係者)。実際、株式市場では「バリュー(割安)株投資ができない」という声が強い。企業業績に関係なく日銀が買い支えるから、業績が悪くて大きく下がったところで将来の復活を期待して買う――といった当たり前の投資ができにくくなっているのだ。
黒田総裁は「2%の物価上昇目標が実現する状況になるまで金融緩和を続ける。出口を議論するのは早い」と繰り返し、国債やETFを買い続けるばかりだが、「出口戦略」を検討すべきだとの声は強まっている。もちろん、日銀がETFを売る可能性が出るだけで株価が急落しかねないのが「日銀中毒」の株式市場の実態だから、慎重な対応が必要なのは言うまでもないが、国債なら満期まで保有する手もあるが、ETFは売らなければ永遠に手元に残る。
「アベノミクスの継承」を謳う菅義偉政権だが、安倍内閣の負の遺産に手を付けるのはいつになるのか。金融政策の正常化に向けたかじ取りは一段と難しくなっている。