FRB議長時代には...
財政拡張的な政策になるのだが、そこではFRBとの連携が重要なポイントになり、イエレン氏の登用は、まさにこれをにらんだものとみられる。FRB議長時代、金融緩和に積極的な「ハト派」として知られ、FRBの現執行部は、一時は財務長官候補に浮上したブレイナード理事をはじめ、かつてイエレン氏に仕えたメンバーも多い。パウエル議長はトランプ政権で就任したが、2020年8月に金融政策の新たな枠組みを導入した。物価上昇率目標を、長い目で見て平均的に2%とする「平均インフレ目標」が柱で、これまで長く2%割れが続いていたから、当面は2%を上回っても金融を引き締めないという意思表明で、市場は、ゼロ金利政策が長く続くと受け止めた。これは、高圧経済政策と親和性が高い。イエレン財務長官の下、財政支出が拡大しても、FRBは金融緩和を続け、国債を大量に買い、高圧経済政策を支えることになるだろう。
ただ、そこから先は、新型コロナの動向を含め、世界全体で未知の領域だ。日本も日銀の異次元緩和をどう着地させるかは全く見通せない。欧州も引き続き緩和拡大に動いている。バイデン新政権は財政拡大で弱者を救済することを重視する見通しだが、一方で、財政を支えるための金融緩和が金融資産を高騰させ、富裕層をさらにもうけさせて格差を拡大しているとの批判がある。これは世界全体に通じる問題だ。
さらに、「イエレン財務長官」は日本にどのような影響を及ぼすだろうか。大枠として、トランプ政権の「一国主義」「アメリカ第一主義」を改め、主要7カ国(G7)を中心にした国際協調に復帰するとみられるが、個々の政策は不透明だ。市場関係者の間では、イエレン氏がFRB議長時代、「日本側の円高懸念に対し、冷ややかだった」(為替市場関係者)との声もある。米国は世界から資金を集めて財政赤字を埋める(国債を買ってもらう)必要があるから、「強いドルを望む」と言い続けなければならないが、ドル高は貿易収支を悪化させる(赤字を増やす)方向に働くから、本音は分からないか。そもそも、高圧経済政策で米国の財政拡張、金融緩和が強まれば、それはドル安・円高要因になる。
米新政権発足に向け、日本の政策担当者はイエレン氏の動向から目が離せない日が続く。