米大統領選でジョー・バイデン前副大統領の当選が2020年12月14日(現地時間)の選挙人による投票で事実上確定し、次期政権の政策が注目されている。その中で、財務長官に前米連邦準備理事会(FRB)議長のジャネット・イエレン氏が指名され、同氏がFRB議長時代に主張した「高圧経済(High-pressure economy)」論が改めて注目を集めている。それは、どんな政策なのか。日本経済にはどんな影響を与えるのだろう。
バイデン氏は主要な閣僚などのポストを順次内定していて、特に経済チームについては女性や黒人を多数起用している。主なポストは、イエレン氏のほか、ホワイトハウスのチーフエコノミストといえる大統領経済諮問委員会(CEA)委員長にオバマ政権でCEA委員を務めたセシリア・ラウズ氏(黒人女性)、行政管理予算局(OMB)長官に左派系シンクタンク、アメリカン進歩センター所長のニーラ・タンデン氏(女性)、通商代表部(USTR)代表に下院歳入委員会で民主党の貿易顧問を務めるキャサリン・タイ氏(台湾系女性)、財務副長官にオバマ政権で大統領副補佐官を経験したウォーリー・アデエモ氏(黒人男性)を指名した。
「危機後のマクロ経済リサーチ」と題した講演
注目される「高圧経済」とは、経済の総供給を上回る需要がある状態のことで、その政策(高圧経済論、高圧経済政策)は、需要が上回る状況を政策的に創り出す、つまり設備投資など供給能力向上のための追加的な需要を促進し、経済の好循環につなげる考えだ。
イエレン氏がこれを唱えたのは2016年10月。「危機後のマクロ経済リサーチ」と題した講演だった。リーマン・ショックによる金融危機からの脱却という課題を踏まえたもので、学術論文的講演は難解だが、もともと労働経済学者であるイエレン氏の主張のポイントは、総需要を増やすことと並んで、「逼迫した労働市場」も高圧経済の重要要素と位置付ける点にある。
リーマン・ショックを受け、雇用機会を得られずに就労を諦めた層があり、彼らは職を探すことが前提の失業者数には含まれない。その後の景気回復でも、就業率は失業率が改善したほどには改善していないことから、失業率の低下が賃金アップに十分つながらなかった。つまり、失業率が下がるだけでは不十分で、就業をあきらめた人の復帰が必要ということになる。それは、労働需給のひっ迫度を強めるということ。無就業者にまで仕事が回れば、労働投入の面から潜在成長率を引き上げることになるし、既に就労している人がより良いポストに転職できる機会が増え、経済の生産能力を底上げし、供給力をアップさせる――という。労働市場の過熱をテコに経済を刺激しようとする経済学ともいわれる。
講演後、トランプ政権が誕生し、高圧経済政策は実行に至らぬまま、イエレン氏は2018年の任期で退任した。
イエレン財務長官となった場合の高圧経済政策はどういうものになるだろうか。バイデン政権は新型コロナ対策や格差是正を重視し、大統領選の際には4年間で2兆ドル(約220兆円)のインフラ投資を公約、社会保障の拡充なども含め向こう10年間の歳出増は10兆ドル規模になるといわれる。