大手商社、伊藤忠商事の株価が上昇気流に乗り、2020年12月に入って連日、上場来高値を更新する局面があった。麻布を扱った近江商人、伊藤忠兵衛を創業者とする伊藤忠商事はもともと大手商社の中で「関西繊維系」とされ、三菱商事などの「財閥系」に比べて石油や石炭のような資源ビジネスに強くなかった。しかし、市況に左右されやすい資源ではない繊維や食料のような「非資源」を磨き続けて安定した利益を得るスタイルを市場が評価していると言えそうだ。
伊藤忠の株価が約3カ月ぶりに上場来高値を更新したのは12月3日。前日終値比2.2%(61円)高の2873.5円まで上昇し、ちょうど3カ月前の9月3日につけた上場来高値(2861.5円)を更新した。さらに12月7日から11日まで小刻みながらも5日連続で上場来高値を更新した。
「バフェット氏の見立て」めぐる株価の変化
3カ月前に何が起きていたかと言えば、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイが日本の5大商社株の発行済み株式のそれぞれ5%超を取得したと8月末に発表したのを受け、商社株が急伸してにぎわっていたころだ。
ただしその後、バフェット氏の見立てに懐疑的な見方も広がり、中間決算発表直前の10月末にかけて各社はほぼバークシャーの発表前の水準まで下げ戻した。中間決算公表後、市場全体が上昇したこともあって各社とも株価を上げてはいるのだが、安定した収益への期待の大きさを示しているかのように伊藤忠の水準の高さが抜けている。そのエビデンスとしては例えば他の4商社(三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅)はすべてコロナ禍前の1~2月につけた年初来高値を超えられずにいる(三井物産は12月14日の終値が1922.5円で2月6日の年初来高値1999.5円が視野に入ると言えなくもないが、他3社のハードルは高い)。
「非資源」の力
では投資家が伊藤忠を選ぶ理由は何か。多くのビジネスの複合体である商社はその最終結果である純利益が比較対象となる。2021年3月期連結決算においては、その純利益で長らく首位にあった三菱商事を抜いて伊藤忠商事がトップに立つ可能性が濃厚となっていることがあるだろう。伊藤忠の2021年3月期の純利益予想は4000億円。2020年9月中間決算の実績は2525億円と進捗率は63%に達する。大和証券は伊藤忠の目標株価を3300円から3500円に引き上げた11月30日付リポートでこの進捗率について「業績安定性を示す」と評価した。これに対し三菱商事の通期の純利益予想は2000億円で中間決算の実績は866億円にとどまっている。なお、三井物産の純利益予想は1800億円で中間決算実績は1100億円だった。
伊藤忠の2020年9月中間連結決算で分野別に積み上げた純利益をみると、食料や住生活など非資源の合計は2012億円で資源の合計は462億円。それぞれ前年同期より減っているが非資源が10.5%減に対し、資源が26.8%減でコロナ禍にあっても非資源で安定的に稼ぐ姿がくっきり浮かぶ。これに対し三菱商事の今期の不振の背景には得意とする原料炭価格の下落があるのは否定できないところだ。