中国共産党員の名簿だとされるデータベースが流出したとして、その内容をめぐり波紋が広がっている。流出したのは、9200万人程度いるとみられる党員のうち、約195万人分。リストは7万9000ほどの「支部」ごとに分割され、その多くが個別の企業や団体と結びついているという。
その中には、防衛産業や情報通信産業など、各国の安全保障に関係する企業や、各国が上海に開設した総領事館も多数含まれる。こういった組織に中国共産党員が勤務することで、機密保持などの面で問題が生じる可能性が指摘されている。
「記者たちは検証作業を行い、そこから判明したのは、実に憂慮すべき内容だ」
データベースの存在は2020年12月13日から14日(日本時間)にかけて、相次いで報じられた。16年4月に反体制派がサーバーから抜き出したとみられ、18か国の国会議員らでつくる「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC)に持ち込まれた。IPACには、日本からは自民党の中谷元衆院議員と国民民主党の山尾志桜里衆院議員が参加している。
IPACが12月13日に出した声明では、
「IPACの代表者は政府以外の情報源からリストを受け取ったが、それを検証する立場にはないため、専門家に提供した。記者たちは検証作業を行い、そこから判明したのは、実に憂慮すべき内容だ」
などと説明。情報は9月中旬に豪オーストラリアン紙、英大衆紙の「デイリー・メール」の日曜版にあたる「メール・オン・サンデー」、ベルギーのデ・スタンダード紙、スウェーデンの記者らに提供され、それぞれが内容を検証して報じた。
ボーイング、HP、HSBC、アストラゼネカ、ファイザー...
オーストラリアン紙やメール・オン・サンデーによると、データベースに含まれていたのは、党内の地位、民族、生年月日など。電話番号が書かれている人もいた。62.8%が男性で、98.9%が漢族だった。
「支部」ごとにみると、上海にある少なくとも10の総領事館が、中国政府が運営する人材派遣会社を通じて共産党員を政府関連の上級専門家や経済顧問として雇用。豪州の外務貿易省も、少なくとも5年間にわたって、この人材派遣会社を通じて現地スタッフを雇っていた。
民間企業も多数登場する。ボーイング社には21支部287人、 ヒューレット・パッカード社14支部390人といった具合だ。それ以外にも、英銀行のHSBCに345人、英製薬会社のアストラゼネカに54人、米製薬会社のファイザーは中国の関連会社に69人、といった具合だ。ボーイング社は戦闘機、ヒューレット・パッカードは情報通信機器、アストラゼネカとファイザーは新型コロナウイルスのワクチンを製造。安全保障と密接にリンクする分野だ。
両紙は
「党員リストに名前があった人が中国政府のためにスパイ活動を行ったという証拠はない」
などと前置きする一方で、オーストラリアン紙は、ある情報将校の話として、
「外国大使館や総領事館で働くことが許される共産党員は、いかなる人であっても、潜在的なスパイだ」
と指摘。メール・オン・サンデーも「安全保障上のリスクが起きる」としている。
ただ、オーストラリアン紙がリストに載っていた人に接触したところ、なぜ名前や電話番号がリストに載ったのか分からない、と話す人や、共産党員であったことを否定する人もいたという。リストの正確性をめぐる検証が、さらに必要になりそうだ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)