岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
ジョン・レノンが「分断の今」を生きていたら

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

夜のストロベリー・フィールズを埋め尽くす人々

   私はこの日、ストロベリー・フィールズを昼と夜の2度、訪れた。この広場の中央に、「IMAGINE」と記された円形の記念碑がある。そこはジョンの写真や花束、ロウソクでびっしり埋め尽くされた。

   夜遅くまで、そこで足を止める人の姿は絶えることがなかった。気温は摂氏零度近く、携帯電話を持つ手がかじかむ寒い夜だったが、ギターの音色や歌声を聞きながら、ロウソクの灯りに照らされるジョン・レノンの写真を見つめていると、40年たった今も彼が多くの人の心を1つにしていることを、改めて感じる。

   弁護士のスティーブン(40代)はその記念碑に、ジョン・レノンの写真をコラージュした大きな額をそっと置き、見つめていた。

   スティーブンは40回の命日のうち20回は、ここに追悼に訪れた。ビートルズが大好きな少年だった彼は、あの夜、ジョンの死を1人、ベッドの中で聞いた。あまりのショックで、「部屋がぐるぐる回っているように見えた」という。

「ジョンが今、ここにいてくれたらと思うよ。今も素晴らしい音楽を作り続けてくれただろうから。彼はもちろん、誰もがそうであるように、欠点もあった。攻撃的だとか、品がないとか、性差別主義者などと言われたこともある。でもそれは、くだらないポリティカリー・コレクトがどうのこうの、ってレベルのことだ。彼は、あの時代の独自の音楽を作り上げた」

   私が「ジョンは、コロナと大統領選について、何を思うかしら」と問うと、スティーブンはこう答えた。

「彼はちゃんとマスクもするだろうな。彼が作った歌に『Isolation(孤独)』というのがある。『これがコロナのテーマ曲です』ってクスクス笑いながら、言うんじゃないかな。ジョンは『表現の自由』を大事にしていたとはいえ、横柄なトランプを支持はしないだろう。とはいえ、不幸にも殺されてしまったジョンを、僕が代弁することはできないからね」

   そして、こう続けた。

「どちらが大統領になっても、この国を1つにまとめてほしい。そう願っている」

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

 
1 2 3 4
姉妹サイト