遊園地、複合型商業施設、コンベンションホール、ホテル、そして多目的ドーム。これらの不動産を東京都文京区の約13万平方メートルに保有し、運営する株式会社東京ドーム(東証1部上場)に対して、三井不動産が完全子会社化を目指して株式公開買い付け(TOB)を始めた。買い付け価格は1株当たり1300円で、約1200億円を投じる。
この買収に東京ドームの経営陣が賛同している背景には、外部の支援を仰がなければならない事情があった。
実は「ピンチ」だった東京ドーム
東京ドーム(多目的ドーム、事務所)699億円、ラクーア(複合型商業施設)235億円、ビッグエッグプラザ(コンベンションホール)281億円、東京ドームホテル(ホテル建物)278億円、黄色いビル(場外馬券発売場、ボウリング場)217億円――。株式会社東京ドームの有価証券報告書には、保有する主要な設備の簿価が列挙されている。ドームとその周辺の複合施設「東京ドームシティ」だけでも、簿価を足し合わせると1900億円に迫る。実際の市場価格は簿価を大幅に上回っている模様だ。
こうした資産を巡り、大株主である投資ファンド「オアシス・マネジメント」(香港)は「資産を十分運営できておらず、宝の持ち腐れだ」と批判を続けてきた。10月には東京ドームの長岡勤社長ら取締役3人の解任を提案し、これを受けて12月17日に臨時株主総会を開き、この株主提案を議題にすることになっている。
ピンチを迎えていた東京ドームに助け舟を出したのが三井不動産だ。株式を100%取得した後には、そのうち20%を読売新聞グループ本社に譲渡することも3社間で合意している。
読売新聞グループは言わずと知れたプロ野球・巨人のオーナー企業であり、巨人は東京ドームを本拠地としている。買い付け価格はTOB発表日の終値に約24%のプレミアムを上乗せしており、オアシス・マネジメント側もこれに応募する姿勢を示している。TOBが成功した後は三井不動産が主導権を握り、読売新聞グループとともに東京ドームシティの収益力向上を図っていく意向だ。
ららぽーと甲子園でのノウハウ生かす?
では、どのように生まれ変わるのだろうか。新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってプロ野球の試合数と観客数は減り、東京ドームの2021年1月期連結決算の最終損益は180億円の赤字(前期は80億円の黒字)に転落する見通しだ。コロナワクチンが行き届いて感染を終息させるまでは、「3密」を避けるためにドームの観客数は絞らざるをえない。そうなると考えられるのはドームの周辺にある商業施設のテコ入れだ。
三井不動産は商業施設「ららぽーと」を全国で展開しており、中でも兵庫県西宮市にある「ららぽーと甲子園」は阪神甲子園球場のすぐ隣にある。ここで培った野球場の近くで大型商業施設を運営するノウハウを東京ドームシティでも実践すると見込まれる。また、ボウリング場やローラースケートアリーナ、卓球場といった既存のスポーツ施設についても、収益力を精査しながら見直しをどう進めるか注目される。
稼ぎ頭だったドームは当分振るわないものの、これまで十分に活用できていなかった立地の良さに三井不動産のノウハウを注入すれば、収益力を向上できる可能性は高い。将来の本格的な再開発も含めて、今後も注目を集めそうだ。