厚生労働省「Go Toトラベルの利用と症状の増加につながったとの因果関係は断定できない」
立憲議員「いや、断定的におっしゃってますよ」「いやー恐ろしい理解」
「僕論文読んでから言ってますけど」
2020年12月8日の野党合同ヒアリングでは、賛否渦巻く政府の観光支援事業「Go Toトラベル」が議題に上った。
立憲民主党の原口一博衆院議員は、Go Toトラベル事業が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性を示唆する、東京大学などの研究チームの査読前論文(※)を紹介し、「これは明らかなデータですよね」として観光庁に見解を求めた。
※研究論文は通常、「査読」(論文が学術誌に掲載される前に行われる同じ分野の研究者らによる評価・検証)が行われた後に正式に発表されるが、今回は「政策上重要なテーマであるため、速報性を重視」し、査読前の原稿が12月6日にネット上で公開された。
観光庁職員は、
「色々な専門家の方が、それぞれの見識、研究をされて発表しているのは承知していますが、観光庁・国土交通省としては、政府の分科会の席の方が判断した見解に基づいて、必要なことがあれば関係大臣と協議してこの施策を進めていくということですので、この調査結果についてはコメントは差し控えたい」
と明確な回答を避けた。原口氏は納得いかず、「研究者の方がエビデンスを出してきてるわけだから。謙虚に捉えるべきだと思いますよ」と持論を述べ、厚生労働省の職員にも質した。
職員は「(論文の)筆者自身がおっしゃっていますが(中略)直接的にGo Toトラベルの利用と症状の増加につながったとの因果関係は断定できないということ」と説明。「それから」と話を続けようとするも、原口氏が割って入り、「そんなことどこに書いてあります、論文の。僕論文読んでから言ってますけど」と指摘した。
他の議員も「(論文で)強い相関が示されるっていってるんだけど」と加勢し、原口氏は「そうですよ」と同調。「あなたのさっきおっしゃったこと、何行目のどこにありますか」と追及の手を緩めない。
職員は「可能性が示唆されるということだと思いますので、因果関係として断定的なものをおっしゃっているわけではない」との認識を示すも、原口氏は「いや、断定的におっしゃってますよ」と否定し、「あなたの理解ですね、それ」「いやー恐ろしい理解」とあきれた。議論は最後までかみ合わなかった。
論文筆者「"相関"関係と"因果"関係とは違うもの」
立憲民主党の党公式ツイッターが、一連のやりとりの動画を投稿すると、多くの注目を集めた。
焦点となった論文の筆者の一人で、米カリフォルニア大ロサンゼルス校助教授(医療政策)の津川友介氏は8日、ツイートを引用し、「私達は、原著論文(DiscussionのLimitation部分)にも、日本語版のプレスリリースにも『今回認められた関係が因果関係であるかどうかは分からない』と明記しています。また"相関"関係と"因果"関係とは違うものです。プレスリリースで『可能性がある』という表現を使っているのは、断定できないからです」と慎重な見方を示した。
研究は、15~79歳の男女約2万8000人を対象に今年8月末~9月末にネットで実施した。Go Toトラベルの利用経験と、過去1か月以内に新型コロナを示唆する5つの症状(発熱、咽頭痛、咳、頭痛、嗅覚・味覚異常)を経験していた人の割合との関連を調べた。
その結果、発熱や咳、頭痛を含めた計5項目すべてで、利用者のほうが有症率は高く、リリースでは「この結果は、Go To トラベル事業の利用者は非利用者よりも新型コロナに感染するリスクが高いことを示しており、Go To トラベル事業が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性があることを示唆しています」とした。
一方で、今回の調査の限界として、次の課題も挙げた。
(1)Go Toトラベルの利用が直接的に新型コロナ症状の増加につながったという因果関係は断定できない。
(2)新型コロナ症状を持つ人が、必ずしも新型コロナに感染しているわけではない。
(3)Go Toトラベルの利用と新型コロナ症状の発生率との間の時系列的関係が不明。
(4)新型コロナ症状を持つ人が、その原因としてGo Toトラベルの利用を思い出しやすい可能性(思い出しバイアス)がある。
なお、政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は9日、衆院厚生労働委員会で「Go Toトラベルの意義、政府がなぜやりたいのかは十分理解しています。しかし、今の時期に、しかも(感染の警戒レベルが)ステージ3の地域では、できればGo Toも含めて人の動きを止めるのは世界的な感染対策上の合理的なオプションだと思う」と述べた。