業績が低迷して久しいパナソニックが態勢立て直しに動いた。トップ交代と持ち株会社化を打ち出したのだ。ライバルのソニーや日立などにどう対抗していくのか、新体制の手腕が問われる。
同社は2020年11月、津賀一宏社長(64)が代表権のない会長に退き、楠見雄規常務執行役員(55)が社長に昇格する人事を発表した。21年6月の株主総会を経て正式に就任する。併せて、22年4月1日付で持ち株会社に移行し、社名を「パナソニックホールディングス(HD)」に変更することも発表した。
テスラ協業など手掛けるも、「稼ぐ」にはほど遠い現状
津賀氏は、薄型テレビ事業や半導体事業の不振などで2012年3月期に7721億円の巨額赤字に転落した責任を取って辞任した前任の大坪文雄氏に代わり就任した。全取締役20人中2番目に若く、専務から6人抜きの抜擢人事だった。就任以降、プラズマテレビなど不採算事業のリストラを断行し、業績の回復に一定の道筋を付けたことから、今回のトップ交代になったと説明される。
パナソニックの歴代社長の「任期」は6~7年、創業者である松下幸之助氏が社長を退いた66歳までという不文律があるとされる。津賀氏は年齢こそ若いが、社長在任9年目を迎えるという異例の長期政権になった。だが、交代のタイミングをなかなかつかめなかったというのが実態のようで、「花道」「勇退」には程遠い。確かに、構造改革で巨額赤字からはひとまず脱却したが、19年にも半導体事業や液晶パネル生産の撤退発表が相次ぐなど、不採算事業を切るのに追われ、成長戦略を軌道に乗せることはできなかった。
収益の柱として車載電池事業に大きな期待をかけ、米電気自動車(EV)メーカー、テスラとの協業を進め、17年に同事業の大規模工場を共同で米国に建設したが、量産の遅れのため黒字化が遅れている。20年3月期の連結決算は、売上高が前期比6.4%減の7兆4906億円、本業のもうけを示す営業利益は28.6%減の2937億円、営業利益率は2%台に低迷する。業績を支えるのは白物家電や半導体関連の製造設備、乾電池、コンセントといった伝統的な製品で、テスラ向けなどの車載事業は466億円の営業赤字だった。同事業は7~9月期は小幅黒字になったが、「稼ぐ」にはほど遠い。
こうした現状を、ライバル各社と比べると、パナソニックの出遅れが鮮明になる。
持ち株会社化で、意思決定を迅速に
ソニーはこの間、長らく業績の足を引っ張ってきたテレビ事業などで大規模なリストラを断行する一方、スマートフォン向け画像センサーと家庭用ゲーム機に集中的に投資してきた。2018年3月期には20年ぶりに営業最高益を更新し、コロナの禍中にあっても足元の業績は堅調だ。特に、定額課金のゲームが好調なほか、音楽や映画といったコンテンツ事業と、音響や放送関係の機器事業との相乗効果も評価される。
日立はリーマン・ショックがあった09年3月期に当時としては製造業で過去最大の赤字を計上したが、そこから構造改革にまい進。上場子会社は22社あったが、本業との相乗効果が薄いと判断した事業は売却を進め、残るは日立金属と日立建機の2社。金属は売却の手続きに入っており、建機も保有比率引き下げに動く。その一方であらゆるモノがインターネットとつながる「IoT」に注力し、今夏には1兆円を投じてスイスの送配電事業を買収するなど、単純に「モノを売る」ビジネスモデルからの転換を進めている。
パナソニックも全く手を打っていないわけではない。米グーグルの元幹部をスカウトして事業戦略本部長に起用し、新事業の創出に取り組んでいる。そのイメージは、家電や住宅設備にソフトを組み合わせ、内蔵センサーから集めたデータを活用して、快適な生活を支援するなど、単品売り切り型から継続的に課金して稼ぐといったものだろう。
そのための仕掛けの一つが持ち株会社化だ。主力事業ごとに8つの子会社をつくり、パナソニックHDにぶら下げる。主力の家電や電気設備は「パナソニック」という会社名の子会社が担い、中国事業も組み込む。法人向けの「生産設備」や「電子部品」、EV用を含む「電池」も基幹事業と位置づける。事業領域が多岐にわたっており、各事業会社で経営責任を明確にし、意思決定の迅速化を図る狙いだ。これまで、住宅や車載電池事業でトヨタ自動車と合弁会社を設立しており、そうした他社との提携のほか、赤字事業の売却やなど事業再編を進めやすくなる効果もありそうだ。
楠見氏は津賀氏と同じ研究開発部門出身で、プラズマテレビ撤退の際のテレビ事業部長として津賀氏を支えた。テスラとの協業にも、津賀氏とともに取り組んできて、現在も電池を含む「車載事業」を担当する。楠見氏は「一つか二つ他社が追いつけないものを持てば成長の核になり得る。そういったものをねちっこく見極めていく」と抱負を語っており、稼ぎ頭をどう作り上げていくか、手腕が注目される。