存在感が高まる中国
RCEPは通商問題であるとともに、政治的な意味が常に注目されてきた。TPPは、自由化や透明性などで高い水準で合意し、中国に圧力をかける狙いがあったが、トランプ政権が「一国主義」の観点から離脱、日本は他の参加国だけでTPP11を何とか発足させ、中国への牽制カードとしてキープした。同時進行で交渉が進んだRCEPは、どこまで高水準で合意できるかが中国への圧力の一つのバロメーターであるとともに、中国のライバルと言えるインドを入れることで、豪、NZなどを含む「自由主義陣営」の発言力を高め、中国を牽(けん)制するというのが日本の狙いだった。
RCEPの自由化のレベルがTPPを下回ること、インドが参加を見送ったことは、日本の目算が外れた形。それでも、「トランプ政権の一国主義、対中強硬路線を受け、中国が米国への対抗上、RCEPに前向きに転じ、ASEAN諸国が積極的なこともあり、日本も『自由貿易』の旗を振ってきた立場から妥結に動いた」(大手紙経済部デスク)との見方が一般的だ。もちろん、実利を得られることは日本にとって大きな魅力だ。
いずれにせよ、RCEP15カ国のなかで中国の存在感が高まるのは確実で、習近平主席はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議(11月20日)で「TPP参加を積極的に検討する」と述べてもいる。これは簡単ではないが、米国がバイデン政権に交代しても、容易にTPPに復帰することはないというのが常識で、インドもRCEPに参加できる国内事情にはない。そうした米印との関係をどう再構築しながら中国に対峙していくか、日本の通商外交は安全保障もにらみながら、難しいかじ取りが続く。