「30歳までに引退し、安定した仕事に就いてセカンドキャリアを歩む」と思っていたが...
プロサッカー選手として珍しい「セルフプロデュース」の数々は、田島に多大な経験をもたらしている。新たな所属先と交渉する際も「ぜひ経験をチームに還元してほしい」と言われる。フロントの会議の場に入ってアドバイスしたこともある。海外を転々とし、積極的に視野を広げてきたからこそ、日本の良さも改めて感じることができている。
「チームがどういう選手を欲しがっているかとか、企業とどういう点で結び付けると互いにメリットが生まれるかとか、選手としては普通考えないこともやりました。僕自身、将来的にはサッカークラブのマーケティングの仕事にも興味があって、やっぱりサッカーを通じていろんな人の交流が生まれることが楽しいです。繋がりを作ることはよく考えます。
今回で言えば、サンマリノのチームのグッズを日本で売るとか、チームにマスコットキャラクターがいないので日本のアニメ関係の会社にキャラクターを作ってもらおうという話もあります。欧州では日本アニメの人気がすごく高いですから。そういった交流も生み出していきたいです」
苦労の連続でもある。言語の壁は毎回ある。辞書を常に携帯し、意図がすべては伝わらなくてもどうにかコミュニケーションをとってきた。日常会話レベルの英語はこなせるようになり、契約関係の重要な内容のみ専門家に確認してもらう。
通訳をつけようとは考えなかった。「もし通訳がいたら頼ってしまう。自分にとって海外でプレーする意味、つまり現地の人や町に触れて学んでいくという楽しみも半減してしまうと思いました」と即答する。基本的に会話は英語だが、スペイン語やクロアチア語など、現地の公用語も最低限勉強してから臨んでいる。「それが礼儀だと思うから」だ。
「伝えたいことが伝わらないもどかしさや、不便さはすごく感じてきました。それでもボールひとつで海外の選手と一緒に熱くなれる。世界でサッカーをやっていると実感する瞬間が喜びになります。言語についても、この年で勉強ができるのは幸せなことです」
昔から好奇心旺盛で、自分でやらないと気が済まない性分。「考えすぎると足を踏み出しづらくなる。勢いで(海外へ)行ってしまうこともありました」。高校のころは「30歳までに引退し、安定した仕事に就いてセカンドキャリアを歩む」と思っていたというが、実際は逆に30歳を過ぎてから情熱を取り戻してさえいる。
「フットサルに転向し、いったんサッカーから離れたのが逆に現役への思いを強くしました。練習を休むと不安になります。そういう気持ちがあればまだ現役で戦えると思っていますし、まだ燃え尽きていない。高校生のころ思い描いていたのとは全然違うサッカー人生ですが、楽しんでいますし、少しでも長くサッカー選手でいたいと思っています」
バイタリティの源は「目標に向けて日々の生活を送っていくこと」。それが生きがいだという。新天地サンマリノでの目標はCL出場。高卒から約20年にして、CL争いができるクラブに所属するのは初めてだ。「昨シーズンはリーグ4位ですから全く不可能ではありません」。憧れたカズは53歳の今も現役。この無名の日本人選手のサッカー人生は、どこまで続いていくのだろうか。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)