岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
メディアが報じなかった大統領FB演説の中身

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   「ありがとう。これは、史上最も大切な私の演説となるかもしれません」――。トランプ大統領が、こうして国民に向けて語り始めた緊急演説(2020年12月2日)。

   今回の大統領選挙での「不正行為」について、46分間にも及んで切々と訴えた。トランプ支持者の多くは、この演説を「大統領の心の叫びだ」と高く評価したものの、マスコミはこれをまともに取り上げなかったばかりか、「CNN」のアンカー、クリス・クオモ氏などは、「放映は良心に恥じる」と拒否、怒りを露わにした。

  • 2020年12月2日にフェイスブックで公開されたホワイトハウスで演説するトランプ大統領の映像。報道陣は呼ばれなかった(トランプ氏の公式フェイスブックの動画から)
    2020年12月2日にフェイスブックで公開されたホワイトハウスで演説するトランプ大統領の映像。報道陣は呼ばれなかった(トランプ氏の公式フェイスブックの動画から)
  • 2020年12月2日にフェイスブックで公開されたホワイトハウスで演説するトランプ大統領の映像。報道陣は呼ばれなかった(トランプ氏の公式フェイスブックの動画から)

「私は勝ち負けにこだわっているのではありません」

「大統領としての私の最高の義務は、米合衆国の法律と憲法を守ることです。ですから私は、選挙制度を守る決意をしました。それは今、組織的な脅迫と包囲攻撃を受けています」
「我々は時期尚早に勝利宣言すべきではないと警告されました」
「今回の選挙と将来のすべての選挙を、アメリカ人が信頼できるようにするためです」

   トランプ氏は、この動画をホワイトハウスで前もって収録し、自身のフェイスブック(FB)に掲載した。回りに報道陣はいない。

   トランプ氏は訴える。

「私が我慢できないのは、アメリカ人から選挙が盗まれることです」
「私は勝ち負けにこだわっているのではありません。公平、真実、合法的な結果なら、私は喜んで受け入れます。そして、バイデンもそうであるべきです」

   トランプ大統領は、今回の大統領選では「ドミニオン」によって大規模に票が盗まれており、不正は前代未聞であるとした。

   「ドミニオン」は選挙関連のテクノロジー企業「ドミニオン投票システムズ(Dominion Voting Systems)」の投票システムのことだ。

   いくつかの州で、バイデン氏への不正投票があり、トランプ氏への票が大量に消えた。その中には、亡くなっている人や居住者ではない人の投票もあった、という。

「連邦最高裁判所で正しい判決が下される」

   そのうえで、次のような主張を展開した。

「2016年の大統領選以来、民主党は不当なやり方で自分をホワイトハウスから追い出そうとしてきた。ロシアゲートや今回の不正は、その延長線上にある」
「前から計画していたとおり、新型コロナウイルスを口実にして、大量の郵便投票と不在者投票を利用し、大規模な不正をもくろんだ。彼らがほしいのは、権力と金だ」
「故人や居住者でない人にも投票用紙が送られた。また、明け方に大量のバイデン票が注ぎ込まれ、合法でない票が含まれるなど、集票システムが改ざんされた。さらに、投票監視人が追い出され、立ち会いなしに開票が行われた」

   そして、選挙の透明性と信頼性を欠く選挙は、2度とあってはならないとし、連邦最高裁判所で正しい判決が下されることを祈ると強調した。

   いくつか、具体的に例も挙げた。

「ウィスコンシン州やミシガン州では開票当初、トランプ氏がかなり優勢だったが、明け方に突然、大量のバイデン票が注ぎ込まれた、とチャートを見せながら説明した」 
「『ドミニオン』を使っているミシガン州の郡では、大量のトランプ票がバイデンに切り替えられた。テキサス州では、安全性や脆弱性を理由に『ドミニオン』を使ってこなかった」
「ジョージア州では再集計の際にも署名を確認しないため、意味がない。ペンシルベニア州の最高裁判所は、郵便投票の署名が有権者登録時のそれと一致していなくても、有効であるとした」

   トランプ氏は強調する。

「この選挙で起きている途方もなく恐ろしい不正を根絶しなければ、もはや我々に国はないのです」
「メディアの多く、そして判事でさえ、私たちが正しいとわかっているのに、受け入れることを拒んでいます」

ホワイトハウスで報道陣呼ばずに収録

   トランプ氏が報道陣を呼ばずに収録されたものを自身のFBに掲載し、国民に直接、訴えたのも、メディアが報道しないとわかっているからだろう。メディアの質問を避けたい、との思いもあったのかもしれない。

   トランプ支持者の多くは、この演説を「熱意を感じる。これはトランプ大統領の心の叫びだ」と高く評価している。

   ニュース専門放送局の「MSNBC」は、演説のごく一部を紹介したものの、報じる際にこう前置きしている。

「トランプ大統領はこれまでもそうでしたが、コロナについてのコメントはなし。でも、これを収録する時間はあったわけです。言っていることはこれまでと何ら変わりなく、『自分は選挙に勝った。選挙は仕組まれた。不正だった』と訴えています。報道陣不在で演説していますが、どうせネットワークが放映しないことを、ホワイトハウスもわかっているからでしょう」

   そして、演説のあとで、「まあこんな感じで、すべて陰謀説、すべて自分を被害者に仕立て上げています」と締めくくっている。

   ケーブルテレビのニュースチャンネル「CNN」では、アンカーのクリス・クオモ氏(兄がニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事)が、「CNNがトランプの46分間の演説を放映しない理由」について終始、強い口調で訴え続けた。

「トランプは有害だ。コロナの危機、最悪の状態に今、アメリカは直面している。トランプはそれをわかっている。でも、あいつはどうでもいいんだ。何もしようとしない。食卓にのせる食べ物がなくて苦しんでいる人たちが、これまでにないほどいるというのに」
「トランプはもうすっかりイカれているので、今夜、吐いたあの大袈裟な演説を放映するのは、私の良心に恥じること。とてもできない。あれは、偽りで醜く、分断と悪意以外の何物でもない」
「今日、私が訴えたいのは、トランプのごまかしに力を貸している人たちのことだ。それはもはや、共和党ではない。トランプ党だ。私が間違っているというなら、あなたはこの1か月間、一体どこにいたんですか。トランプには何の証拠もない。あなたにはわかっているはずだ。ルーディ(トランプ弁護団のジュリアーニ氏)だって、何の証拠も見つけていやしない。あなたはわかっているはずだ。大した不正はなかった。機嫌を取って大統領を守ろうとしてきたあのビル・バー司法長官でさえ、選挙は公正だと言っている。それなのに、あなたは何をしているのか。問題なのは、男女を問わず、あなたたちだ」

「恥を知れ!」と非難したCNNアンカー

   最後に、トランプ氏を今も支持し続けている共和党議員たちを名指しし、「Shame on you! (恥を知れ!)」と非難して、こう主張した。

「今、必要なのはリーダーシップだ。議会はトランプのトラウマから自由にならなければ。なぜ議員になりたいと思ったのか、初心を思い出してくれ。そして今、それを実行してくれ。あなたがこの番組を見てくれているのはわかっている。感謝する。だから直接、訴えかけさせてくれ。今、何をしなければならないのか。わかっているはずだ。数週間後ではない。時は、今だ」

   これに対して視聴者からは、「クリス、よくぞ言ってくれた」との声もあれば、「不正の証拠は山ほどある。問題は(選挙結果に)影響を与えるほど重要かどうか、だ」という反論もある。

   報道姿勢についても、「クリスはすべて事実だけを伝えてくれればいい。それについてどう感じるかは、私たちに決めさせろ」、さらには「CNNは今頃、ビクビクしているはずだ。トランプが再選して、民主党議員の多くが刑務所行きだからな」との反応もある。

   11月24日公開のこの連載「政権移行動き始めたが...民主党支持者にも『選挙不正』論」で触れたように、11月の世論調査によると国民のほぼ3人に1人、トランプ支持者の4人に3人以上が、今回の大統領選で不正が行われたと考えている。

   しかし、民主党支持者を中心に「不正」は陰謀論だとまったく相手にしない人も多い。双方の情報をチェックしている人たちからは、「何が本当なのか、何を信じればいいのか、さっぱりわからない」という声が聞こえてくる。

   2021年1月20日の大統領就任式。笑顔でそこに立つのは、マスコミの報道どおり、バイデン氏なのか。トランプ氏の逆転もあり得るのか。今もトランプ氏を支援し続けている人たちは日々、祈る思いでいる。

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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