インターネット掲示板「5ちゃんねる」から広まったとされるスラング「チー牛」が転機を迎えている。
容姿蔑視的な意味合いを持つことから、これまではネガティブイメージが強かったこのワード。だが、近頃はインスタグラムで当初の意味と異なる使い方が流行し、「2020年インスタ流行語大賞」にもランクインした。今後、世間に定着する可能性はあるのか。
「インスタ流行語大賞」3位にランクイン
ネット用語などを解説するウェブサイト「ニコニコ大百科」によれば、「チー牛」とは「三色チーズ牛丼顔」の略称。牛丼チェーン「すき家」の商品「とろ~り3種のチーズ牛丼」を注文していそうな顔の人物、という意味だ。具体的には、ネット上で出回っている画像に描かれた「メガネ姿の男性」のような顔の人物を指しているという。「多くの場合煽り・罵倒・侮蔑といった目的で使用される」とし、5ちゃんねるを中心に広まったとしている。(20年12月1日確認)
なお、すき家を運営する「ゼンショーホールディングス」の広報担当者は6月、「ネット上で『これを食べている人は、こういう人だ』といった表現として、『チー牛』という言葉を多く見かけるが、認知しているか」とのJ-CASTニュースの取材に対し、
「『チー牛』という言葉については、広報室としては認知しております。人気ナンバーワンのトッピング商品である『とろ~り3種のチーズ牛丼』ですが、幅広いお客様に今後とも継続してお召し上がりいただければと存じます」
と回答している。
そんな「チー牛」だが、最近は様相が変わってきているようだ。若い女性をターゲットにしたネットメディア「Petrel」は、11月19日に「2020年インスタ流行語大賞」を発表。その3位に「チー牛」が入ったのだ。
「#チー牛さんと繋がりたい」ハッシュタグ発生
同賞発表時のリリースによると、賞自体はPetrelが「Instagram(インスタグラム)での投稿数やトレンドの先取り感などを基準に独自に選定」したもので、「チー牛」の意味は「なんだかイケていない人物」と説明している。
J-CASTニュースが11月30日、Petrelを運営する株式会社パスチャーの広報担当者に「チー牛」を選出した理由を聞くと「(チー牛に関する)オリジナルハッシュタグなどが発生していることも踏まえ、3位に選定いたしました」とのことだった。
ここで、担当者がオリジナルハッシュタグの一例として挙げたのが「#チー牛さんと繋がりたい」だ。実際にインスタグラムでこのタグを検索してみると、以下のような使用例が確認できた。
・自身の写真とともに「#チー牛さんと繋がりたい」をつけて投稿
・実際の「チーズ牛丼」の写真に「#チー牛さんと繋がりたい」をつけて投稿
・「#おしゃれさんと繋がりたい」というタグとともに「#チー牛さんと繋がりたい」をつけて投稿
パスチャーの広報担当者は「#チー牛さんと繋がりたい」というハッシュタグは「ユーザー同士のコミュニケーションや話題のネタ」として使われていると分析。「三色チーズ牛丼顔」の略称という本来の意味を「含まないまま使用されている機会が多くなっています」とした。
また、単に「#チー牛」というハッシュタグのある投稿に関しては、「チーズ牛丼そのもの」を意味する投稿件数が多くなっていると説明。その上で、インスタグラムにおける「チー牛」というワードについては、「容姿差別といったマイナスニュアンスでは浸透していないかと思われます」と見解を示した。
「何故か好感度が上がって普通の会話に定着」
ネット文化に詳しい人物は、「チー牛」の変化をどう見ているのか。ITジャーナリストの井上トシユキさんは、J-CASTニュースの12月2日の取材に対し「登場当初は『陰キャ』『イケてない人』を揶揄する意味合いだったのが、謙遜や自虐の意味で使う人が現れたことで、何故か好感度が上がって普通の会話に定着してしまったレアなワードだと言えると思います」と分析する。
近年はネット上で「笑い」を意味する言葉として使われていた「草」が女子高生などの間で広まり、一般に定着したケースが知られている。5ちゃんねるから広まった「チー牛」も、これから「一般化」の道をたどるのだろうか。井上さんは、こう展望する。
「チー牛もその可能性を秘めているとは思いますが、読みの音の耳馴染みが良くないというか、あまりポップな音ではないので、流行るにしてもここまでのような気もします。少ししたら、チー牛と同様の意味で異なる言い方のワードが発明される可能性もあり、どこまで一般的に定着するか、(インスタ流行語大賞の)3位にランクインしたここからが正念場なのではないでしょうか」