「Thanksgiving Day(感謝祭の日)、6フィート(1.8メートル)離れていれば大丈夫。うちで一緒に食事をしない?」
ニューヨーク市に住む高齢の友人エバリンから、数週間前にそんな誘いがあった。私とは30年来の付き合いだが、年齢を明かしたことはない。おそらく、80代だと思う。
例年の感謝祭は他州に住む友人宅にディナーに呼ばれるが、今年は新型コロナウイルス感染が心配なので、行かないという。
米国で、感謝祭はクリスマスに次ぐ大きな休暇で、離れて暮らす家族が集まり、テーブルを囲む。日本で言えば、お正月やお盆のような帰省休暇だ。
国民の半数「コロナの予防接種受けない」
2020年3月にニューヨークでコロナ騒動が始まって以来、エバリンは自分のアパートに人を入れたことがない。
この夏、久しぶりに彼女と公園で会った時、彼女の最初の言葉は「私に触れないで」だった。彼女に触れようとしてなど、いないのに。コロナ感染を恐れて、おそらく誰に対してもそう言うのだろう。
生涯未婚で、血の繋がりのある人はアメリカにもういない。私たち夫婦を自分の家族のように思っている。彼女の葬儀で読んでほしいと頼まれて私が書いた弔辞を、すでに彼女の遺言執行人に預けてあるという。
感謝祭の日(11月26日)は先約があったので、彼女のアパートは別の日に訪ねると伝えた。
後日、彼女から「やっぱり、室内で会うのは心配になった」と連絡があり、次のようなメールが届いた。
「直接会う代わりに、電話で思う存分、話すことにしましょう。理解してくれて、ありがとう。この感謝祭の日に、あなたたち夫婦が私の人生にいてくれることに、神に感謝します。コロナのワクチン接種を早く受けたい。そうすれば安心して、あなたと一緒に時間を過ごせるようになるから。接種の予約ができないか、医者に電話してみたけれど、まだ時期はわからないから、ニュースをよく見ているように、と言われたわ」
複数の世論調査によると、アメリカ人の半数は「コロナの予防接種を受けない」と答えている。予防接種の信頼性が課題となっていて、私の友人の多くも「あまりにも急いで作られたものだから、長期的にどんな副作用が起きるかわからない」と懐疑的だ。
でもエバリンは、「自由に人と会いたい。1人で家にいるのも精神的に辛いわ。不安にかられながら生活するのは、もうたくさん」と1日も早く接種したがっている。医療関係者や高齢者は、優先される。