「感染は防げない」を前提に「犠牲者を減らす」対策
だが、梶村さんが指摘した通り、状況は予断を許さず、一進一退を繰り返している。長期化は避けられない見通しだ。
インタビュー後の11月25日ベルリン発時事通信電によると、コッホ研究所の統計で、過去24時間のコロナ死者数が410人になり、4月の第1波時の315人を超えて過去最多になった。1日の新規感染者数も1万8000人超と依然高水準が続いているという。
こうした動きを受けて同日、メルケル首相は各州と協議をし、クリスマスに向けた方針を打ち出した。梶村さんによると、以下の内容だ。
1. 12月1日から、私的な集まりは、最大で2世帯、大人5人に制限。ただし、(感染率の低い)14歳以下の子は例外とする。
2. 冬休みは全国で12月19日から前倒しにして始める。
3. 12月23日~1月1日の間は、1の規制を緩和し、世帯数を問わず、最大10人の大人が集ってよい。この場合も14歳以下の子は例外とする。
つまり、12月からはいったん規制を強め、クリスマスから年末までは大人10人と子供や孫が集まってもよいという方針だ。感染拡大を厳戒しつつ、最大行事のクリスマス期間だけは制限を緩め、一家団欒の日常を取り戻してほしいという、ぎりぎりの選択だろう。
連邦制をとるドイツでは、日本よりも各州の権限が強い。感染予防法は各州に権限をゆだねており、マスク着用をどこまで義務付けるか、開く店の種類を具体的にどこまで認めるかなどは、州の条例で規制している。たとえばベルリンでは、最初は感染防止に効果がない、と言われたマスクについて、9月から公共交通機関出の着用を義務付け、最近では約20の繁華街で着用を条例で義務づけた。この点では、地域ごとに、感染に応じた施策を立てる日本とも似ている。
だが、日本との一番違いは、、政治家の責任の取り方だと梶村さんは指摘する。
「コッホ研究所のウィーラー所長は、『私はこう思う』と言いつつ、感染防止策については『学者が判断することではなく、政府が判断することだ』とクギを刺す。学者と政治家の判断は違って当然という考え方で、政策決定のプロセスがはっきり表に出る。それが安心感につながっている」
ドイツの報道によると、メルケル首相は,今回のロックダウンについて、もっと厳しい措置を取るよう主張したという。「命を救うためには、もっと厳しく制限する必要がある。人の接触率を4分の1に絞り、日常生活で会う人を、同居人以外は1人に制限してほしい」という旨の発言をした、と伝えられている。
だが前述のように、厳しいロックダウンには人々の疲弊や経済的損失という別の悩みが付きまとう。
今回の措置に当たってメルケル首相と各州は、当面100億ユーロ(約1兆2300億円)を企業に追加支援することでも合意した。閉鎖によって影響を受ける従業員50人以下の中小企業は、前年11月の売上高の最大75%を受け取れる。
それでも、家庭内などと比べ、比較的感染が少ないと言われる飲食店や宿泊業者からは、不満の声も出ている。ドイツ商工会議所の統計によると、今回のロックダウン2週間の途中経過で、ドイツ全体の小売店、商店の売り上げは前年同月上半期と比べ、43%の減少になったという。
では、こうした損失補償をしながらの「ソフトなロックダウン」はいつまで続けられるのだろう。
メルケル首相は、暖かくなる来年4月の復活祭(イースター)までは、今のような感染状況が続くとの見通しを持っている。また、元ハンブルク市長で社会民党(SPD)のオーラフ・ショルツ財務相は、来年6月いっぱいまでのコロナ対策の臨時予算を総額960億ユーロ(約12兆円)と算出し、「借金をすれば、まかなえる」と発言している。
EUの「安定・成長協定」は加盟国の財政の健全性を保つため、財政赤字を国内総生産(GDP)比で3%以内、債務残高を60%以内にするよう定めている。多くの国はこの財政規律に違反しているが、ドイツはここ数年で債務残高を減らし、昨年は60%を切った。こうしたゆとりが、長期的な取り組みを下支えしているのだろう。
各国のコロナ対策は、感染の状況や財務状態に応じて違いが顕著になっているが、梶村さんは大別すると二つの類型になると指摘する。第1は日本や台湾、韓国、ニュージーランドのような島国で、「水際作戦」で流入をシャットダウンするタイプ。第2はスマートフォンのアプリなどで感染者との接触を監視し、警告するタイプ。9つの国と隣接するドイツでは、「水際作戦」は不可能だ。かといって、プライバシーを制限してまで「監視」を強めることも難しい。そこで長期的な目標として定めているのが、感染は防げないことを大前提として、「犠牲者を減らす」ことなのだという。
コロナ対策を担当するシュパーン保健相が、会見で毎回のように言及するのは、ドイツのリスクグループの多さだ。
内閣府の30年版高齢社会白書によると、総人口に対する65歳以上の人の高齢化率は、2015年時点で日本が26・6だったのに対し、欧米では21・1%のドイツがこれに次いでいる。フランスの18・9%、英国の18・1%、米国の14・6%と比べても高く、推計では2030年ごろには30%を超える勢いだ。ドイツは「感染を抑えつつ、重症化しても命を救う」ことを最優先にし、当面は10万人当たりの1週間の新規感染者数を50人以内に抑える目標を掲げている。
「一口でいえば欧州の感染率は日本の10倍で、米国は日本の100倍。せめて今の北海道並みになりたい、という状態です」
梶村さんはそう話すが、裏を返せば、北海道を初め日本全体が、今の欧州のようにならないという保障はない。むしろ長期的にそうなることを想定して備えるべきだろう。梶村さんはさらにこう付け加えた。
「ただし明るい知らせもある。ウイルスの再生産係数は春の最悪段階では3前後だったが、今は1・2か1・3、それに、ワクチン開発の朗報もあります」