ジャーナリスト・梶村太一郎さんにうかがうドイツの今
ドイツはこの春、南欧並みの感染者を出しながら、死者は比較的少なく、世界から「ドイツモデル」と称賛された。その「欧州の優等生」にもこの冬、危機は迫っている。その一方で、米製薬大手ファイザー社と協力し、世界に先駆けて米食品薬品局(FDA)にワクチンの緊急時臨時使用許可(EUA)を申請したドイツのバイオ企業ビオンテックが世界の注目を集めている。
11月17日、ベルリン在住46年のジャーナリスト、梶村太一郎さんに、ZOOMでドイツ事情をうかがった。なお梶村さんには、このコラム6回目の「欧州のコロナ禍」(5月30日リリース)でも話を聞いている。
その回でもお伝えしたように、「ドイツモデル」の大きな特徴は「参謀本部」方式にある、と梶村さんは言う。参謀本部は、19世紀のプロイセンで確立した軍事組織で、平時から、有事を想定して軍事計画や動員計画を研究し、準備する軍の中枢部門だ。
感染症における参謀本部は、連邦保健省直属の機関、ロベルト・コッホ研究所である。1890年にコッホが設立したこの研究所は、2002年から3年にかけてSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行したのち研究を重ね、2013年に連邦議会に、最悪事態を想定したリスク分析の報告書を提出した。これは,変種のコロナウイルスが東南アジアから欧州、北アメリカに感染拡大するというシナリオで、今回の新型コロナ発生とよく似ている。特筆すべきは、ドイツ政府がこうした研究をもとに医療体制や予防体制を構築していた点だ。これが、パンデミックにおいて、ドイツがパニックに陥らず、冷静に初期対応をするに当たって、大きな備えになった。
この研究所は毎日感染情報を公開しており、そのサイトを見るだけでも深刻さがうかがわれる。11月23日のサイトには、この日だけで1万864人の新規感染が確認され、累計では92万9133人。治療中の患者が29万6200人に上り、ICU患者も33人増えて3742人になる。直近1週間の10万人当たりの新規確認は143症例になり、これも日本の全国平均10・79人とはケタが違う。だが、その感染の勢いをみれば、欧州でも医療態勢が充実しているとはいえ、かなり緊迫した状況だ。
こうした趨勢が明らかになった10月28日、ドイツのメルケル首相は州政府と話し合い、11月2日から月末までのロックダウンを決めた。今回も、持ち帰りを除き飲食店やバーを閉鎖し、娯楽イベントなどを禁じた。劇場や映画館、スポーツ施設なども閉鎖し、公共の場の集まりは最大2世帯、計10人までとする。また、宿泊施設の利用も「観光目的以外」に限る、とした。その一方で、学校や商店などは閉鎖しなかった。春に比べると、やや緩やかな都市封鎖といえる。それでも、梶村さんが送ってくださったロックダウン後のスナップ写真には、ベルリンの公園をマスク着用で散歩する人や、行きつけのトルコ人経営の魚屋が、マスク着用で1回に入店者を1人に制限する様子などが写っており、平穏な日常にも緊張感に包まれる雰囲気が伝わってくる。
「今回の措置は、ドイツでは『ソフトなロックダウン』とか、『ロックダウン・ライト」と呼ばれている」
春のロックダウンでは、学校が休校になり、食品を扱うスーパー、薬局、病院以外は商店も閉めた。
「30代の息子は3歳と昨夏生まれた乳飲み子を抱え、保育園も閉まっていた。在宅で仕事をしていたが、週に2日は出勤しなければならず、奥さんと交替で子どもの世話をしながら3か月を過ごした。『3か月で5年分ぐらいの歳をとった』とぼやいていました」
厳しすぎる行動制限は長く続かない、ということだろうか、今回は理美容院も店を開けているし、前回はできなかったお葬式への参列や教会の礼拝も許されているという。