夏ごろには、いったんコロナ禍が小康状態になった欧州で、秋口から感染が再拡大し、その勢いがとまらない。なぜ感染がぶり返し、どんな対策を打とうとしているのか。独仏を中心に、日本の「明日」の姿を探る。
欧州と緯度が重なる北海道の感染拡大
私が住む北海道は、コロナ禍については、全国の「先行指標」のような立ち位置にあるようだ。鈴木直道知事は2020年2月28日に、全国に先駆けて独自の緊急事態宣言を出し、外出自粛を要請した。夏にはいったん収まりかけたものの、冬に向けて感染が急速に再拡大している。11月21日までの1週間で、人口10万人当たりの新規感染者は全国平均が10・79人だが、北海道は31・10人と突出しており、大坂や東京を上回っている。鈴木知事は23日、経済振興策「GoToトラベル」キャンペーンからの除外を表明することになった。
たぶん、これには二つの要因がある。第一は、最北に位置し、いち早く寒冷の季節を迎え、冬も長引くことだ。もう一つは、札幌に一極集中するという歪な人口構成だ。
札幌市の人口は約196万人で、市別に見れば東京都区部、横浜、大坂、名古屋に次ぐ全国5番目の政令指定都市だ。一方、北海道の人口は約524万人。つまり、北海道の人口の37%は札幌に集中していることになる。北海道の人口密度は1平方キロ当たり62・8人に対し、札幌のそれは1750人。単純に計算すれば約27・8倍だ。
これを東京に置き換えてみれば、都区部には総人口の7・6%が集中し、東京都全体で見れば11%強、人口約3680万人の首都圏1都3県には30%近くが住んでいることになる。つまり北海道の札幌への一極集中は、全国の首都圏への一極集中を上回る計算になる。
もちろん、都道府県の一つを、全国になぞらえることには飛躍がある。しかし北海道の面積は国土の2割強。数年前にネット上で、日本の地図パズルで北海道の型枠に全国都道府県のパズル片をいくつ詰め込むことができるかを競う遊びが流行ったが、最高は16県に上った。私も試みたが、東京23区を含め、16都県が北海道の広さに収まった。
つまり、面積の大きさに比べ、この札幌への人口集中は、かなり異例と言っていい。
背景には二つの理由がある。一つは、戦後の北海道の主力産業だった石炭採掘がエネルギー革命や事故によって衰退し、同じく柱だった林業が、外国産の安い材木の輸入に押され、廃れていったことだ。もう一つは1972年の札幌冬季五輪開催に合わせ、開発予算が札幌の都市整備に集中したことだ。これによって札幌は、炭鉱の職を失った人々の受け皿として人口が拡大することになった。
北海道と命名された明治2年に、長く暮らしてきたアイヌの人々を除けば、札幌に住みつく和人は豊平川の渡し守をする2家族7人だけだったと言われる。それが1970年には100万人都市になり、その後も周辺合併を続けて倍増した。全国でもまれな新興急増都市なのである。
寒冷地であることと、札幌への人口一極集中によって、今回のコロナ感染も北海道に特有の展開をたどるようになった。一つは、冬に向かい、全国に先駆けて感染が広がっていることであり、もう一つは、札幌と道内各都市の往来が、感染拡大源になっていることだ。
危機感を募らせた鈴木知事は11月16日、札幌市の秋元克広市長と緊急会談をして、札幌市民には外出自粛、札幌と道内他都市には、札幌との往来自粛を求めた。
だが、即効性を見込むのは難しい。高度に都市機能が集積した札幌には、日ごろから通勤・通学・買い物などで周辺から通う人々が多く、とりわけ小樽、江別、石狩、北広島の近隣4市は一体化した活動圏だ。さらに、北海道開発局の調べでは、コロナ禍以前、新千歳空港の乗降客は1日6万人近くを数え、全国で5番目に多く、その6割が札幌に流入していた。10月から東京都も「GoToトラベル」の発着地の対象に加わったことから、行楽シーズンを迎え、首都圏からの観光客数も回復しつつあった。裏を返せば、道内他都市は札幌との行き来によって、さらに札幌は国内他都市との行き来によって感染拡大のリスクを抱え、しかもそれが、「経済活動再開」と矛盾するというジレンマを抱え込むことになった。しかも、人口減少が続く他都市では医療態勢も十分ではない。比較的整備されている札幌以上に、地域医療が逼迫する臨界点は早くにやってくる。
以上が、この秋に札幌と北海道で起きたコロナ感染の簡単な素描だ。こうした問題を考えるにあたって、いつも私の念頭にあるのは、欧州各国の様子だ。札幌の緯度は北緯42度から43度に位置する。同じ緯度をたどればドイツのミュンヘン、マルセイユのあるフランス中南部やスペイン北西部に近い。季節感や、大都市への人口一極集中といった条件も、かなり似通っている。
その欧州で何が起きているのか。ベルリンとパリに長年住むお二人に、近況をうかがった。