2020年8月に開業した「きらぼしライフデザイン証券」(以下、きらぼしLD証券)がこのほど初となる四半期決算を迎えた。順風満帆な門出となったのだろうか。
営業員の手数料収益評価を廃止して、過剰な取引を防ぎ顧客の資産形成に対して長期分散のプランを提案。資産残高1000万円以上の顧客には、対面取引・ネット取引問わず購入手数料をキャッシュバックして実質無料で投資信託を購入できる。
そんな戦略を掲げることで、きらぼしLD証券含む東京きらぼしフィナンシャルグループ全体での投資信託の預かり残高を現状2000億円から倍となる4000億円に高めていく目標を掲げている。
同グループが11月10日に発表した2021年3月期の第二四半期決算を基に、開業から2ヶ月あまりの成果を見てみよう。
約210億円の投資信託預かり残高を獲得したが...
きらぼしLD証券の預かり残高は決算短信によれば約210億円(下図)。グループ全体では約2000億円の残高なのでその10%を2ヶ月あまりで集めた計算となる。
グループ中で投資信託の取扱があるきらぼし銀行(18年に八千代銀行、東京都民銀行、新銀行東京が合併して発足)は約28億円程度の残高減(3月末比)となっているので、グループ全体では約182億円の残高が増えた計算になり、目標の2000億円増まで単純計算だと3年以内に到達できることになる。
100億単位で残高が増えたので成長が大きいように見えてしまうが、ネット証券最大手のSBI証券では、2021年3月期上半期決算だと約2.8兆円の投資信託の預かり残高がある。きらぼしLD証券はSBI証券の1%に満たない残高しかない。まだ開業2ヶ月なので、残高を増やすポテンシャルがあるとも、顧客数と共に頭打ちが近いとも判断しかねるが、今後の動向の注目ポイントだ。
富裕層をターゲットに残高増をもくろむ
投資信託は購入手数料がかからない「ノーロード」という種類が増えてきているため、きらぼしLD証券でなくとも購入手数料がかからない投資信託を購入できる。しかしきらぼしLD証券の場合には対面取引でも手数料実質無料と銘打っている。預かり残高1000万以上の顧客を対象としているので、富裕層の顧客に対して長期での資産形成を促して残高を積み増していくことは自明。逆に言えば毎月数千円・数万円単位で積立をするサラリーマンのような顧客は、収益効率が悪いので、主な顧客ターゲットにはしていないはずだ。
そんな投資信託の金融機関の収益源は信託報酬という運用資産残高に応じて、投資信託の運営元と折半する手数料になるが、銀行や証券会社が受け取れる信託報酬の率は概ね0.2%/年と薄利多売。しかも210億円の残高に対して年間約4200万円の信託報酬が受け取れるが、年間約740億円の粗利益を生み出すグループ全体から見ればやはり規模は小さい。目標となる預かり残高2000億円を達成したところで年間約4億円の収益増にしかならないのだ。
「デジタルバンク」設立準備で存在意義を見いだせるか
東京きらぼしフィナンシャルグループは2020年10月30日に、きらぼしデジタルバンク設立準備会社を設立。2021年度中にデジタルバンクを開業すべく準備を進めている。
きらぼし銀行との連携による対面コンサルティングサービスと非対面によるデジタルサービスとのハイブリッド化。即ち「『対話を軸にした"金融にも強いサービス業"』の更なる進化を目指す」(決算短信より)としている。
銀行業と証券業の兼業が認められていない国内の金融事業規制とはいえ、投資信託は銀行でも証券でも扱える金融商品の一つ。投資信託以外の、証券業でしか扱えない株式などの金融商品を、長期資産形成というキーワードで顧客に提案しなければならないだろう。
さもなければ顧客は預金を軸にお金の相談ができるデジタルバンクのほうを選ぶに違いない。