岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
極右と呼ばれる「プラウド・ボーイズ」と行動を共にした夜

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深夜に「歩いて送っていくよ」と言ってくれた青年

    トランプ支持者は、その夜遅くまで、星条旗やトランプ支持の大旗を翻して街じゅうを歩き回り、ワシントン記念塔やホテルの前などで立ち止まっては、右手を左胸に当てて星条旗に向かって「忠誠の誓い」を暗誦し、国歌や「God Bless America」を歌い、トランプ氏の勝利を誓い合っていた。その中にも、多くのプラウド・ボーイズたちがいた。

    私は行動をともにし、零時過ぎにプラウド・ボーイズたちと出会ったホテルに戻った。

    私のホテルはそこから歩いて20分くらいだったが、「Black Lives Matter Plaza」の近くだと知ると「それは危ない。アンティファに狙われる」と彼らが心配した。

    今日、出会ったトランプ支持者の女性の何人かは、背の高い体格のいい男性と歩いていて、「この人、ボティガードなの」と私に紹介した。一緒に来られなかった夫や彼が心配して、友達に同行するように頼んだという。

    ホテルの前にいたプラウド・ボーイズの男性が、「一緒に歩いて送っていくよ」と言ってくれたが、ほかのトランプ支持者のインド系の男性が、車で送ってくれるという。彼は別の女性2人にも声をかけ、1人は郊外のホテルだというのに、皆を送ってくれることになった。

    ひと晩、プラウド・ボーイズたちと行動を共にしただけで、彼らがどういう人間か分かろうはずもない。私が自分の目で見て、体験したことを、今回は文字にした。

    いつか、彼らが「敵」とみなすアンティファの声も、じっくり紹介したいと思う。

    私は一日中、何も飲み物を口にしていなかったので、喉がカラカラだった。

    車を待つ間、さっき「歩いて送っていくよ」と言ってくれたプラウド・ボーイズの男性が、缶ビールを空けて半分、私に注いでくれた。

    きりりと冷えたビールが、こんなに美味しいと思ったのは、久しぶりだ。

    その日はひと晩中、歓声や奇声が絶えなかったが、幸い銃声はなく、ワシントンの夜は更けていった。(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

 
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