「バイデン政権になり、共産主義が台頭したら、その時は武器を手に戦う用意ができている」――。「GOD GUNS AND TRUMP(神 銃 そしてトランプ)」と書かれたトレーナー姿で、「TRUMP 2020」の大旗を掲げた中年男性が言い放った。
実はこれまでにも私は、同じ言葉をほかのトランプ支持者たちから、何度も聞いたことがある。今回の米大統領選は不正だと固く信じ、全米から首都ワシントンに集結したトランプ支持者たちの1日(2020年11月14日)を、前回「勝利を信じる『トランプ・ファイター』とは何者なのか」に続いて報告する。
ホワイトハウス前で民主党支持者と衝突
米大統領選の「不正」を訴える抗議デモの朝、私は宿泊先のホテルからほど近い「Black Lives Matter Plaza(ブラック・ライブズ・マター・プラザ)」を歩いていた。ここは2ブロックの遊歩道で、黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官に殺された事件の直後、黒人女性のミューリエル・バウザーム市長(民主党)がそう改名した。
「BLMP」の突き当たりにある高さ2.1メートルのフェンスは、その直後に、抗議デモで人々が集まり、混乱が起きた時に立てられた。フェンスにはBLMを支持する人たちの手で、警官に殺された数多くの黒人たちの写真をはじめ、「Black Lives Matter」や「FUCK TRUMP」などのサインがびっしり貼られている。フェンスを守るかのように、その前にはいつも、若者を中心とする「BLM」運動支持者たちが座り込んでいる。
フェンスの向こう、数百メートル先には、ホワイトハウスがある。でも、その全貌を眺めるためには、サインの隙間から覗くしかない。
その朝、私の目の前で、トランプ支持の男性が「ホワイトハウスを見たい」とフェンスに貼られたサイン数枚をはがし始めた。
フェンスの前に立ちはだかっていた人たちが、「ここから出ていけ!」「レイシスト!」「白人至上主義者!」と激しく非難。これ対してトランプ支持者は、「このフェンスは君たちのモノか。ここは公の場だろ」「ワシントンはアメリカの首都なんだ。俺たちがいて、なぜ悪い?」と応酬。緊張が高まり、警官らが駆けつけた。
大統領選投票日(11月3日)に私がワシントン入りした際、テキサス州ダラスから訪れたトランプ支持の夫婦が、「神が私たち誰もを愛していること、私たち2人がトランプ大統領を支持していることを示すために、フェンスにサインを貼ったら、(BLMの人たちに)はがされてしまったのよ」と言っていたことを思い出した。
この日、反トランプの人たちとの衝突は、街じゅうで起きた。これについては、次回の記事で触れる。
「GOD GUNS AND TRUMP(神 銃 そしてトランプ)」
抗議デモの会場に向かう途中で、そろってトランプ支持の大旗を悠々と掲げる中年夫婦と出会った。南東部フロリダ州オーランドからやってきた。
体格のいい夫は黒いサングラスをかけ、「TRUMP 2020 NO MORE BULLSHIT(たわごとはもうたくさん)」と書かれた大旗を手に、トランプ支持の赤い野球帽を被っている。
黒いトレーナーには、「GOD GUNS AND TRUMP(神 銃 そしてトランプ)」と大きな文字があしらわれていた。
彼は私に、こう話した。
「自由であり続けるために、合衆国憲法修正第2条を守るんだ。共産主義はたくさんだ。アメリカが、中国やベネズエラやキューバになるのは、ごめんだ。バイデンは、ただの操り人形だ。背後で操っているやつらがバイデンを追い出し、カマラ・ハリスが大統領の座に着く。そうなれば、アメリカは極左に傾き、共産主義国に成り下がるんだ」
「そうなったら、あなたたちはどうするの?」と私が聞くと、 「そのうち、わかる」と、夫婦は同時に、意味ありげに答えた。
「そうなったら、この国を守らなければならない。まさに我々の祖先が独立戦争で戦ったようにね」と妻が言う。
「武器を手に?」と聞く私に、夫が「必要な手段は何でも使う。祈り、そして武器だ」と答えた。
実はこれまでにも私は、ほかのトランプ支持者たちから、「僕らの自由を奪われたら、武器を手に戦うつもりだ」という言葉を何度も聞いたことがある。
今回の集会でも複数の人が、「必要とあらば、武器を手に戦うつもりだ。武器を持っているのは、僕ら共和党支持者の方だからね」と話していた。
「連邦政府、連邦軍を相手に戦う、ということ?」と私はこの夫婦に聞いた。
「そういうことになるな。そのために憲法修正第2条があるんだ」
合衆国憲法修正第2条は、「規律ある民兵は自由な国家の安全保障にとって必要であるから、国民が武器を保持する権利を侵してはならない」と謳っている。
「でもその時、連邦軍は、私たちの側につくかもしれないわ」と妻が答える。
「あいつら民主党は、数百万の票を盗んだんだ。ドミニオンのソフトウエアについて聞いてるだろ?」
これは、前回の記事でも触れた。選挙関連のテクノロジー企業「ドミニオン投票システムズ(Dominion Voting Systems)」の投票システムは、全米の約半数の州で使われており、数百万票のトランプ票を削除したとの疑惑がある、というものだ。
「真実はすぐに明らかになるわ。私たちはトランプ大統領とともに戦う。彼は私たちとともにあるのだから」と妻が言った。
集会には車椅子、高齢者も参加
不穏な空気を感じ、私は複雑な思いで2人と別れ、あちこちからやってきては、どんどん増えていくトランプ支持者らの群れともに、集会場所の「フリーダム・プラザ」へ向かう。
目の前で警備に当たる黒人警官が、ピンクのコーティングのダンキンドーナッツを美味しそうに食べている姿に、なんだかホッとする。
集会の2時間前だというのに、会場も道もすでに人で溢れ返り、赤い野球帽と大旗で埋め尽くされている。「STOP THE STEAL(盗みを止めろ)」のサインも目立った。
「USA! USA!」「4 more years!」「Trump 2020!」「We want Trump!」の合唱があちこちから聞こえてくる。トランプ氏も車で姿を見せ、支持者たちは喜びに湧いた。
集会は正午に、脱帽しての祈り、国旗への「忠誠の誓い」、そして国歌斉唱とともに始まり、「God Bless America(ゴッド・ブレス・アメリカ=アメリカに神のご加護がありますように)」なども歌った。
集会はおおむね平和的で和やかな雰囲気で行われた。見知らぬ人同士で言葉を交わしたり、写真を撮る時に場所を譲り合ったりしている。参加者の中には車椅子や高齢者の姿も目立ち、周りの人たちが手を差し伸べていた。カトリック教会の宣教師グループや、米軍の関係者なども参加していた。
さまざまな人種や年齢の演説者が、「大統領を決めるのはメディアではない」「これはTrumpの集会ではない。Truth(真実)の集会だ」などと訴えた。
トランプ支持を知られたくない人たち
その後、トランプ氏と支持者のテーマソングとも言える「Y.M.C.A.」の音楽に合わせて、歌い踊り、合衆国議会議事堂、さらに合衆国最高裁判所に向かって行進し始めた。
地元ワシントンに住む女性2人(20代)は、「ここにいるのを知り合いに見られたら、大変だわ」と笑った。トランプ氏に投票した有権者はわずか5.5%という、極めてブルー(民主党色の強い)の街なので、トランプ支持を知られたくない人は多い。
兄と一緒に来ていたシアデ(42、東部メリーランド州ボルチモア)はエチオピアで生まれ、5歳の時に移民として家族とともに米国に移住した。
「民主党支持の友達にいくら説明しても、私たちがトランプにだまされていると言うだけで、まったく理解できないらしい。彼らは人種問題などについても表面的で単純な見方しかできなくて、まるで3、4歳の幼児に話しているみたいだから、もうわかってもらおうとするのはあきらめたわ。でも、今回、ここで会った人たちとは、すぐに通じ合えるの」と言う。
トランプ支持者たちはその夜遅くまで、星条旗やトランプ支持の大旗を翻して街じゅうを歩き回り、ワシントン記念塔やホテルの前などで立ち止まっては、右手を左胸に当てて星条旗に向かって「忠誠の誓い」を暗誦し、国歌や「God Bless America」を歌い、トランプ氏の勝利を誓い合っていた。
「トランプ大統領就任」祝うためホテル予約
翌日15日朝、トランプ支持者が多く宿泊しているホテルに立ち寄った。
その前で、一緒に来た友達としゃべっていた女性シーシー(60代、フロリダ州ココビーチ)が、「民主党は4年前の大統領選でも、不正をしたわ。アメリカは本来、愛国者の多い赤い国(共和党)なのよ。次期大統領は100%、トランプよ」と言い切る。
2021年1月20日の「トランプ大統領就任」をここワシントンで祝うために、すでにホテルを予約した、という人たちに何人も出会った。
「バイデンが大統領になったら、何のためにワシントンに来るつもり?」と聞くと、彼らの答えは同じだった。
「バイデンが大統領になるわけがない」
「もし、なったら?」
「それはありえないけれど、もしそうなったら、左翼からホワイトハウスを守るために、ワシントンにやってくる」
そばにいた30代くらいの女性が、ホテルの周りを見回して、呆れたようにつぶやいた
「ここはどうして、街中に星条旗がほとんどないの。アメリカの首都なのよ。本来なら、星条旗が溢れているべきでしょう」
次回の連載(2020年11月21日公開予定)では、リベラル系のメディアが「極右の自警団」と呼ぶ「Proud Boys(プラウド・ボーイズ)」と、ワシントンで私が行動をともにした夜について報告する。(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。