「だしパック煮すぎで食中毒か」に「勘弁して」 報道「独り歩き」をメーカー懸念 同様の事例も「聞いたことない」

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   東京都墨田区の保育園児28人が食中毒の症状を呈した原因は、給食に使われた「だしパック」を煮すぎたことにある――? そんな可能性が指摘され、インターネット上で注目を集めた。

   しかし東京都福祉保健局は「今までだしパックが原因で食中毒が起きたという事例はこちらで把握していません。(だしパックの煮すぎは)あくまで可能性の1つです」と強調している。あるだしメーカーの代表は「だしパックが原因の食中毒というのは聞いたことがない」と首をかしげ、困惑している。

  • だしパックの煮すぎが原因になった可能性が指摘された(写真はイメージです)
    だしパックの煮すぎが原因になった可能性が指摘された(写真はイメージです)
  • だしパックの煮すぎが原因になった可能性が指摘された(写真はイメージです)

「だしパック」からヒスタミンが抽出されたが...

   東京都福祉保健局は2020年11月16日、墨田区の保育園で11日に園児28人が、顔や腕に発疹を呈す食中毒を起こしたと発表。園で調理・提供され、園児たちが食べた給食の「きつねうどん」が原因と断定した。

   食中毒を引き起こす「ヒスタミン」の検査を実施したところ、検食(給食施設などで衛生検査用に保存される食品)のきつねうどん、きざみ揚げから100グラムあたり8ミリグラム、同20ミリグラムが、また残品の「だしパック」からは同5ミリグラム以下がそれぞれ検出された。墨田区は原因の給食施設に、6日間の営業停止処分を下している。

   ここまでが都の発表だが、16日に産経新聞がこの食中毒について報じるとネット上でも注目された。記事では「都によると、墨田区保健所は、きつねうどんのスープから検出された化学物質『ヒスタミン』が原因の食中毒と断定。給食の調理業者が、ヒスタミンが入っていた市販のだしパックをメーカーによって定められた調理法よりも長く煮て、抽出された可能性があるとみている」とし、だしパックのメーカーが煮る時間を10分としていたのに対し、給食調理業者は45分煮ていたとしている。

   「だしパックの煮すぎ」が食中毒の原因となった可能性があると指摘されたことで、ツイッターでは「普通にこわいんですけど」「出汁パック煮すぎで食中毒って恐いけど、時間以上煮てるときある」などと、だしパック自体を不安視する向きも。ただ、「煮すぎて食中毒って従来注意喚起とかあったんかな?」「何で出汁パックの煮過ぎで食中毒になるの?」「昔からずっと入れっぱなしでぶくぶく煮込んでるけど?」などと疑問の声も多かった。中には「だしパックへの風評被害にならないといいんだけど」と製造業者への影響を懸念する声もあった。

   厚生労働省のウェブサイトによると、ヒスタミン食中毒は、原因物質のヒスタミンが高濃度に蓄積された食品、特に「魚類及びその加工品」を食べることで発症するアレルギー様の食中毒。「ヒスタミンは熱に安定であり、また調理加工工程で除去できないため、一度生成されると食中毒を防ぐことはできません」という。

   予防方法は「原材料(魚の場合には死んだ瞬間から)から最終製品の喫食までの一貫した温度管理」が重要で、具体的に「魚を購入した際は、常温に放置せず、速やかに冷蔵庫で保管するようにしましょう」などの注意が書かれている。「煮すぎ」に該当する注意は見当たらない。

だしパックの「通常と違う使い方」

   東京都福祉保健局の食品監視課担当は17日、J-CASTニュースの取材に「通常食中毒の原因になる魚のメニューが、今回の給食にはありません。そこで、だしパックに魚が原材料で使われているので、原因の可能性の1つとしてあがりました。だしパックやだし汁が原因とは断定していません」と話す。「今までだしパックが原因で食中毒が起きたという事例はこちらで把握していません。(だしパックの煮すぎは)あくまで可能性の1つです」と強調している。

   前出の発表にあった「100グラム中5ミリグラム」というヒスタミンの検出量は、食中毒の原因となるには少ない量であるため、「だしパック自体に問題はなかったと考えている」と前出担当者。一方、煮だし時間がメーカーの表記より長かったという「通常と違う使い方」をしていたことから、「もともと魚に含まれていたヒスタミンがだし汁に移行した可能性があります。だしをとる際に魚の成分が抽出されますが、ヒスタミンは水溶性なので、一緒に抽出された可能性が考えられました」としている。

   また、「子どもの場合は大人より感受性が高く、少ない量でも食中毒を呈することがあります。実際、今回の給食は大人も食べていますが、大人には食中毒が出ていません」とも説明した。だしパックを煮過ぎることでヒスタミンが抽出されるかどうかを検証する実験をするかどうかは検討中という。

   給食施設を処分した墨田区の生活衛生課担当は、取材に「『きつねうどん』からヒスタミンが検出されたのは事実で、そのためアレルギー症状が出たので営業停止処分としています」と話した。今後「市販のだしパックで実証実験するのを視野に入れ、東京都と調整しています」という。

「長い間、給食用にもだしパックを提供していますが、食中毒は起こったことがない」

   ツイッターでも指摘があったように、思わぬ煽りがあったのがだしパックの製造業者だ。九州地方に本社を置くあるだしメーカーの代表は、取材に対し「この会社ができて30年以上経ちますが、だしパックが原因でヒスタミンが抽出されたという話は聞いたことがない。長い間、給食用にもだしパックを提供していますが、食中毒は起こったことがない」と話した。

   墨田区の食中毒の報道は17日朝に知ったといい、代表は「私たちからすればいい迷惑ですよ。勘弁してください」と困惑。「だしパックという言葉が独り歩きしていると感じます」と話す。

「かつおや昆布などを配合して不織布に入れているのがだしパックで、原料はホテルや飲食店で使われているだしと同様のものです。結局だしパックというよりも、魚がどれだけヒスタミンを持っているかという問題になるのではないでしょうか」

   厚労省食品監視安全課の食中毒被害情報管理室担当は、だしパックからヒスタミンが抽出されて食中毒が発生した事例があるかどうかについて「すべてを洗い出していないので断言できませんが、今のところ事例は確認できていません」と話す。保育園など子どもの多い施設では例年、ヒスタミンによる食中毒が多く発生するという。先述のようにネット上でも困惑する声があがっているが、同担当は「社会的な影響も考慮し、我々も墨田区の調査内容を注視しながら、伺える状況は伺いたい」と話している。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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