ウィズコロナで薬の売れ行き鈍化予測も... 第一三共の株価押し上げた「新型抗がん剤」PJ

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   製薬大手、第一三共の株価が2020年11月11、12日と連日で上場来高値を更新し、その後も堅調に推移している。臨床開発を進める3つの新型抗がん剤「ADC(抗体薬物複合体)」プロジェクトへの期待が改めて高まっているほか、10月末に打ち出した株式の需給改善策も好感されている。がん治療に集中する経営体制への市場の評価は高く、さらに上値を追う可能性がある。

   まず、足元の株価に影響を与えた、10月30日の取引時間中に第一三共が発表した2020年9月中間連結決算(国際会計基準)を確認しておこう。

  • 株価上昇の背景は(イメージ)
    株価上昇の背景は(イメージ)
  • 株価上昇の背景は(イメージ)

衛生意識向上で一部医薬品は売れなくなる?

   売上高は前年同期比0.1%増の4801億円、営業利益は32.1%減の584億円、純利益は19.8%減の516億円と2桁減益の決算だった。新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な受診控えの一方、研究開発費が予定よりかさんだことなどが響いた。

   同時に発表した2021年3月期の業績予想は純利益を従来予想から30億円減の530億円(前期比58.9%減)にするなど下方修正するものだった。「ウィズコロナ」時代の到来により、衛生意識が向上したことで季節性インフルエンザや風邪などの流行が減少し、一部の医薬品の販売が伸び悩むと見込む。人々の健康面からすると必ずしも悪い現象ではないものの、製薬メーカーのビジネスには影を落とすということだろう。

   株式市場を意識して第一三共は中間決算などと同時に1000億円を上限とする自社株買いを行うとの株主還元策も発表した。自社株買いの前後で企業が得る利益額が変わらなければ、1株当たりの利益が増えるので株主にとっては喜ばしい。そのため通常は株価上昇の要因となる。自社株買いの期間は11月2日~2021年3月23日。発行済み株式の9.3%に相当する自己株式を2021年4月に消却することで確実に需給が引き締まると念を押す形となった。

   減益決算と自社株買いがセットで取引時間中に発表された10月30日の株価はやや乱高下し、前日比0.9%(25.5円)高の2748.0円で引けた。

進む「転換」の成果

   ただ、市場関係者がより注目したのは、短期的な業績の上下ではなく将来的な成長力にあったようだ。野村証券の10月30日付のリポートは「(新型抗がん剤<ADC>の一つである)エンハーツの好調を確認した」として、決算内容を好意的にとらえた。再発乳がんなどに用いられるエンハーツは米国で2020年1月、日本でも5月に発売。特に米国ではコロナ禍にあっても四半期ベースで32億円、50億円、63億円と順調に売り上げを伸ばしている。

   ADCとはがん細胞を選んで結合する「抗体」にがん細胞を特異的に攻撃する薬物を合わせたもので、従来の抗体医薬品と化学療法剤のそれぞれの長所を持つ。第一三共は2016年にがんの研究開発や事業展開を中心に据える改革に踏み切り、「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」への転換を進めている。その成果の一つがこのエンハーツであり、その滑り出しの好調を確認できたことが、投資家の買い意欲を誘っている。

   第一三共は「がんシフト」を推進した2016年以降、株価は基調として右肩上がりであり、時価総額は2016年の2兆円弱から足元で7兆円台半ばにまで膨らんでいる。今後はまいた種の収穫期が次々に訪れると予想されるだけに、成長力を見込んだ買いがさらに入ることもありそうだ。

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