進む「転換」の成果
ただ、市場関係者がより注目したのは、短期的な業績の上下ではなく将来的な成長力にあったようだ。野村証券の10月30日付のリポートは「(新型抗がん剤<ADC>の一つである)エンハーツの好調を確認した」として、決算内容を好意的にとらえた。再発乳がんなどに用いられるエンハーツは米国で2020年1月、日本でも5月に発売。特に米国ではコロナ禍にあっても四半期ベースで32億円、50億円、63億円と順調に売り上げを伸ばしている。
ADCとはがん細胞を選んで結合する「抗体」にがん細胞を特異的に攻撃する薬物を合わせたもので、従来の抗体医薬品と化学療法剤のそれぞれの長所を持つ。第一三共は2016年にがんの研究開発や事業展開を中心に据える改革に踏み切り、「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」への転換を進めている。その成果の一つがこのエンハーツであり、その滑り出しの好調を確認できたことが、投資家の買い意欲を誘っている。
第一三共は「がんシフト」を推進した2016年以降、株価は基調として右肩上がりであり、時価総額は2016年の2兆円弱から足元で7兆円台半ばにまで膨らんでいる。今後はまいた種の収穫期が次々に訪れると予想されるだけに、成長力を見込んだ買いがさらに入ることもありそうだ。