去り行く「185系」とホームライナー 東海道線「特急体系一新」はひとつの時代の区切りに

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   JR東日本は2020年11月12日に、2021年春に東海道線の特急体系を一新すると発表した。現在の特急「踊り子」(東京~伊豆急下田・修善寺)を「踊り子」「湘南」に再編し、車両をE257系に統一する。また東海道線で平日朝晩に運行されている「湘南ライナー」「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」(運行区間は東京・新宿~小田原)は、「湘南」に置き換えられる形で廃止される。

   これにより現在「踊り子」「湘南ライナー」「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」に使用される185系は運用を離脱し、定期運用が全てなくなる。同系はJR東日本で定期運用につく最後の国鉄特急型車両で、去就が注目されていた。同時に湘南ライナーなど3列車の廃止をもって、185系も多くの列車に充当された「ホームライナー」が首都圏で全廃されて終止符を打つ。

  • 2021年春に「踊り子」「湘南ライナー」「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」からの撤退をもって終止符を打つ
    2021年春に「踊り子」「湘南ライナー」「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」からの撤退をもって終止符を打つ
  • 2021年春に「踊り子」「湘南ライナー」「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」からの撤退をもって終止符を打つ

特急以外にもマルチに活躍

   185系は国鉄時代の1981年に登場し、特急「踊り子」でデビューした。その後1982年からの「新幹線リレー号」を皮切りに高崎線・東北線(宇都宮線)方面にも増備された。定期列車には「踊り子」の他「あかぎ」(上野~前橋)「水上」(上野~万座・鹿沢口)などがあったが、臨時列車で中央線・常磐線方面でも活躍する姿が見られて、首都圏一円でポピュラーな国鉄特急型であった。2013年から20年までは臨時夜行快速「ムーンライトながら」にも従事して、JR東海の大垣駅まで乗り入れたような汎用性の高さも長寿の一因だ。

   ただし13年から老朽化による廃車が始まり、2016年をもって東北・高崎線からは撤退、定期運用は「踊り子」と「湘南ライナー」「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」のみになっていた。

   このほど、中央線の「あずさ」「かいじ」から運用離脱したE257系の改造と試運転が済み、21年春に「踊り子」の全面置き換えが決まった。185系は最初に運用に就いた「踊り子」で40年間活躍を続けた上での引退で、臨時列車用として少数が残る可能性はあるが全車引退へのカウントダウンが始まっている。

   現在定期運用がある国鉄特急型電車はこの185系の他はJR西日本「やくも」の381系しかない。稀少さゆえに踊り子からの引退まで鉄道ファンの注目をさらに集めそうである。

特急格上げが進んだホームライナー

   もう一つ興味深い現象は、185系置き換えと同時に「湘南ライナー」などの廃止でJR東日本の首都圏から「ホームライナー」が全廃されることだ。朝夕のラッシュ時にライナー券を購入して乗れるホームライナーは、主に特急型車両があてられて必ず座って通勤できるメリットがある。

   この「特急型を特急以外の用途に使う運用」をポピュラーにしたのも185系の影響が大きかった。それまでの特急型と違い窓が開きドア幅も広く設計され、はじめから特急以外の運用も想定されていた。1982年に大宮まで開業した東北・上越新幹線に上野駅から連絡列車として運転された「新幹線リレー号」に使われたのも同系である。新幹線リレー号から撤退すると、東海道・高崎・東北線で特急のみならずホームライナーにも運用を広げていく。東海道線沿線と東京駅を結ぶ湘南ライナーには登場時の1986年からずっと運用され、派生列車のおはようライナー新宿・ホームライナー小田原として新宿駅にも顔を出している。踊り子は行楽地への特急なので平日より土休日の方が本数が多いが、これらは平日だけの運転なので運用も効率的だ。

   ホームライナーは長距離の通勤客に満員電車から解放され、ゆったり座って通勤できる恩恵をもたらした。80~00年代に運行線区を広げ、東海道線以外にも中央線・総武線・横須賀線・常磐線・高崎線・東北線で運転されていた。しかし2010年代に廃止が進み、東北・高崎線の「ホームライナー古河」「ホームライナー鴻巣」は2014年に廃止、2019年には総武線の「ホームライナー千葉」、中央線の「中央ライナー」「青梅ライナー」が廃止された。最後まで残ったのが東海道線系統の「湘南ライナー」系列だったが、来春の廃止で首都圏では全廃される。

   代わりに設定されているのは通勤時間帯の特急で、高崎線の「スワローあかぎ」、中央線の「はちおうじ」「おうめ」、来春東海道線で運行予定の「湘南」などが該当する。事実上、ホームライナーの特急への格上げが相次いでいる。ライナー券は20年現在一律520円だが、これらの列車の特急料金は距離50㎞まで760円、100㎞まで1020円になる(事前購入の場合。車内で購入すると割高になる)。

特急「新料金体系」へ一本化進む

   特急格上げのトレンドの背景には何が考えられるか。関東の鉄道史や鉄道事情に詳しい鉄道ライターの枝久保達也さんは「料金は上がる代わりに車両のグレードを上げ、各線でサービス形態も統一してわかりやすくする狙いがあると思います」と話した。

   ホームライナーの場合、座席番号まで指定される列車と着席保証だけの列車があり、線区によってサービスがまちまちだった。JR東日本が導入を進めている新しい特急券は事前購入を前提とし、自由席と指定席の区別をなくした。また繁忙期・閑散期・通常期の区別をなくして通年同じ料金としている。乗車前に確実に自分の座席を指定でき、さらに「えきねっとチケットレスサービス」で予約をすれば100円割引となるので、料金のシンプル化と切符のチケットレス化を進めたい狙いもJRにはあるだろう。

   もっとも枝久保さんによれば「埼玉に住んでいるのですが、沿線のホームライナーが『スワローあかぎ』に置き換えられた当初は客足が落ちたように思います。新しいシステムにハードルが上がったと感じた人はいたかもしれません」とのことである。新しい特急券ではライナー券と違って、座席指定をしておかないと後から座席を指定した乗客に席をゆずらなければならない難しさもあるので、東海道線でも湘南ライナーの乗客がそのまま特急に移行するかは未知数だ。

鉄道サービスの一つの区切りに

   「もともと特急型車両を朝晩に回送する時に乗客も運ぼうという発想で始まったのがホームライナーですが、車両の置き換えに合わせてわかりにくい種別を特急として統一したかったのではないでしょうか」と推測したのは、関西・東欧の鉄道事情をルポしてきたライターの新田浩之さん。

   JR西日本でもかつては「はんわライナー」(阪和線)「やまとじライナー」(大和路線)など国鉄型を利用したホームライナーがあったが今では全て廃止され、近距離の需要は特急「はるか」「くろしお」の停車駅を増やしたり、特急「びわこエクスプレス」で対応している。ラッシュ時だけの特殊な種別を整理していく流れは関西でも起きていた。

   特急以外でも万能に活躍して通勤客にも貢献した「最後の国鉄特急型電車」185系だが、引退と共にホームライナーが首都圏で終焉を迎えるのも、鉄道サービスの1つの区切りを象徴しているかのようである。

(J-CASTニュース編集部 大宮高史)

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