最大の「壁」は衆院選か
後期高齢者の医療費の85%は、国民の税金や若い世代の給与から天引きされる社会保険料でまかなわれている。若い世代やこれから生まれてくる次世代につけ回している形で、保険料を負担している経済界が、世代間の公平性を高めるべきだと主張するのは当然だ。現役世代の負担が増え続ければ、消費の足を引っ張ることにもなる。
ただ、厚労省や医師会が主張するように、やみくもに負担を増やせば受診を控える人が増えて病状が悪化するなどにより、医療費が逆に増えかねないのも確かだろう。
こうした議論の常として、両論を折衷するなり、足して2で割るなりの妥協が図られるだろう。何人を2割負担にするかの線引きが問題であり、財務省案とされる900万人と、厚労省案とされる200万人の間のどこかで決まるのが順当だ。
ただ、不確定要素もある。最大の「壁」が衆院選だ。残り任期が1年を切り、早ければ年明け解散説も取りざたされるが、負担増に反発した高齢者の票が野党に流れることを警戒する空気が与党に広がり、「2割への引き上げはコロナ禍の前に決めたことで、状況が変わったのだから1年先送りし、衆院選の後に決めればいい」(公明党筋)との声も聞こえる。
今のところ社会保障に関し、菅首相からは、不妊治療の補助拡大・健康保険適用が語られるくらいで、とりわけ負担増については明確な発言はない。「コロナ対応もあって財政赤字が拡大する中、高齢者医療問題は、国民の痛みを伴う改革への菅首相の『本気度』のバロメーターになる」(大手紙経済部デスク)といえそうだ。