三菱スペースジェットが再び「飛び立つ」日は来るのか 威信かけた「国家プロジェクト」の失墜

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   三菱重工業が、初の国産ジェット旅客機「三菱スペースジェット」の開発を凍結した。開発費はすでに累計7000億円にもなり、国費約500億円も投じられた事実上の「国家プロジェクト」はなぜ失速したのか。

   三菱重工業は10月30日に2021年度から3年間の中期経営計画を発表し、スペースジェットの開発費を3年間で200億円に減額するとした。年間70億円弱という額は、過去3年間の約20分の1。新型コロナウイルスの影響で世界の航空業界は大打撃を受けており、市場の回復が当面見込めないことから、「いったん立ち止まる」(泉沢清次社長)との表現で事実上の凍結を明らかにした。

  • このまま終わってしまうのか?(プレスリリースより)
    このまま終わってしまうのか?(プレスリリースより)
  • このまま終わってしまうのか?(プレスリリースより)

「日の丸ジェット」は夢と終わるのか

   実際に開発作業はどうなるのか。三菱重工は、運航に必要な「型式証明(TC)」を航空当局から取得する作業は続けるとしているが、開発を担う子会社の三菱航空機は体制を大幅に縮小。すでに2020年度に、1700人いた社員を900人程度まで削減し、400人いた外国人技術者も半分以上が去ったというが、2021年度は追加の人員削減は避けられない。年間70億円弱の予算では試験機を飛ばすことはできないとみられ、エンジニアたちは今後、これまで3900時間の試験飛行で集めたデータを検証し、TC取得のための書類の精査などを行いながら需要の回復を待つという。

   つまり、開発を諦めたわけではないが、試験飛行も行えない中、「2021年度以降」としていた納入時期は見通せなくなったということだ。 スペースジェットのプロジェクトが本格的に動き始めたのは2008年。プロペラ旅客機「YS11」が1973年に生産を停止して以来の国産旅客機として、経済産業省が音頭を取って「日の丸ジェット」実現の機運が高まった。航空機は自動車の数倍になる100万点単位の部品を使い、関連産業の裾野が広く、産業振興、技術力強化の点から日本の経済の体力強化に貢献するものとして期待され、国はこれまで約500億円を投じて先進操縦システムや機体の軽量化につながる炭素繊維材料の技術開発などを支援してきた。

   当初は2013年に全日本空輸(ANA)への初号機納入を予定していたが、欧米の安全基準を満たすため次々と設計変更などを余儀なくされ、ズルズルと納期を延期。最新の設計を反映させた試験機が2020年1月に完成したが、翌2月に6度目の納期延期に追い込まれ、さらにコロナ禍の直撃で、TC取得に向け試験機を米国へ移すことができなくなり、機体は現在も愛知県営名古屋空港に置かれたまま、今回の事業休止に至った。

新聞各紙はこぞって...

   一企業のこととはいえ、「国家プロジェクト」の挫折とあって、11月5日までに大手紙で日経、朝日、毎日が社説で取り上げている。

   共通するのは見通しの甘さや過信だ。日経(11月4日)は「つまずく原因には自前主義への過信があったのではないか」、毎日(1日)は「原因は自らの技術力や管理能力への過信にあるのではないか」、朝日(5日)も「遅れの背景には、自社の技術力を過信し、社外のノウハウを十分に活用できなかったことがある」と、3紙口をそろえる。

   「航空機開発は年々高度化しており、開発費を軽減するために国際共同開発が潮流になりつつある」(日経)にもかかわらず、「当初から自主開発路線にこだわり、自社の人材で開発を進めようとした。型式証明の取得に手間取り、ノウハウを持つ外国人材主体に切り替えたが、遅れを取り戻せなかった」(毎日)ということだろう。

三菱重工自体の業績も苦しく...

   2024年以降の事業再開への道のりは厳しい。最大市場の米国は、コロナ禍で小型旅客機を運航する国内路線が打撃を受けている。日本国内も、スペースジェット25機を納入する予定のANAは2021年3月期に5000億円規模の最終赤字に転落する見通しで、保有機体の削減など構造改革を迫られている状況で、スペースジェット導入計画を見直す可能性が指摘される。

   スペースジェットの開発費を生んできた三菱重工本体の業績も新型コロナで苦しい状況だ。2020年3月期はスペースジェットの損失計上で、営業損益は20年ぶりに295億円の赤字に転落し、2021年3月期も営業利益はゼロの見通し。米ボーイング向け航空部品事業なども需要の低迷が続き、中期計画では、固定費削減のため2023年度までに国内外で5000人規模の配置転換や人員削減を実施することも打ち出した。ガスタービンの高度化など脱炭素技術を中心に、次世代エネルギーなどに投資する考えだが、収益の柱に育てるには時間がかかる。

   スペースジェットの視界は、容易に開けそうにない。

姉妹サイト