米ファイザー社は2020年11月9日(米東部時間)、独バイオ企業のビオンテックと開発中の新型コロナウイルスのワクチンについて、臨床試験(治験)で感染を防ぐ有効率が90%を超えたと発表した。
発表によると、現時点では安全性についての重大な懸念はなく、11月第3週にも米食品医薬品局(FDA)に、緊急時使用(EUA)の許可申請を出す方針。米メディアによると、12月中旬にも認可が下り、20年末か21年初めにも接種が始まる見通しだ。だが、日本で容易に接種を受けられるようになるまでには、様々なハードルが残っている。
「マイナス70度以下」での保管が必要
日本政府は20年7月、21年6月末までに1億2000万回分のワクチンの供給を受けることで米ファイザー社と基本合意している。ただ、ファイザーのワクチンは、遺伝子の情報を細胞に伝える「メッセンジャーRNA」(mRNA)を活用した新たな技術を利用しており、マイナス70度以下での保管が必要だ。ここが流通へのネックになりそうで、その懸念が欧米メディアでも相次いで報じられている。
ロイター通信は、
「ワクチンは超低温での保管が必要で、米国の最も設備が整った病院でも障害になりそうだ。さらに、資源が乏しい農村や貧しい地域では、供給できる時期や場所に影響を与える可能性がある」
と指摘。ワシントンポストは
「超低温での保管が必要だということと、1回の最低の注文量が1000回分だということからすると、多くの診療所では(ワクチンを)貯蔵することができないだろう。必要な冷凍庫を備えている病院やその他の医療機関が、最初にワクチンを接種することになるだろう」
としている。
こういった指摘を踏まえると、日本でもインフルエンザワクチンのように地域の小規模な診療所での接種は困難で、都市部の大規模病院での接種が先行することになりそうだ。
加藤勝信官房長官は11月10日午前の記者会見で、ファイザーの発表について「個別企業の治験」だとして、「政府としてコメントは差し控えたい」とするにとどめた。
優先的に接種するのは「医療従事者、高齢者、基礎疾患がある人」
日本政府はファイザー以外にも、国外の2社と基本合意や契約を結んでいる。20年8月に英アストラゼネカ社と21年初頭からワクチン1億2000万回分の供給を受け、そのうち3000万回分については21年1~3月に供給を受けることで基本合意している。20年10月には、米モデルナ社と、21年1~6月に4000万回分、7~9月に1000万回分の供給を受けることで正式な契約を結んでいる。仮にアストラゼネカとモデルナも開発が進んで、計3種類のワクチンが出回った場合、「有効率が高いワクチンを接種したい」という声も出そうだ。
加藤氏はこの点について、「検討がなされている」とするにとどめた。
「複数のワクチンが並行して供給されるようになった場合において、どうワクチンを供給するのか、国民の皆さんから見たら選択ができるのか、については、現時点で『こうだ』という考え方が固まっているわけではない。厚労省において、今申し上げた供給量や供給の時期、あるいは接種体制、こういうものを総合的に勘案して、どのようにワクチンを供給していくのか、また接種していくのか、そういったことについて検討がなされていると考えている」
現時点でも比較的はっきりしているのは、「誰が先に接種を受けられるか」だ。11月9日に開かれた厚生科学審議会の会議では、医療従事者、高齢者、基礎疾患がある人に優先的に接種する方針を確認している。妊娠中の女性については、現時点で行われているワクチンの治験の対象外となっており、安全性・有効性が現時点で明らかではないとして、現時点での判断を見送っている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)