「いつから政府の方針を批判すると『反政府運動』になったんだ」――。共同通信が2020年11月8日に配信した記事をめぐり、読者から違和感が噴出している。
記事では、日本学術会議の任命拒否問題をめぐり、首相官邸が会員候補6人の「反政府運動」を懸念し、任命を見送っていたと伝えていた。
ジャーナリストらも批判
見出しは「官邸、反政府運動を懸念し6人の任命拒否」。複数の政府関係者の話として、「会員候補6人が安全保障政策などを巡る政府方針への反対運動を先導する事態を懸念し、任命を見送る判断をしていたことが7日、分かった」と報じた。本文に「反政府運動」という表現はなく、記者が形容したとみられる。
記事配信後、ツイッター上では「この国はいつから政府の方針を批判すると『反政府運動』になったんだ」「政府方針に反対することと、反政府運動はまったく違います」などと見出しへの批判が相次ぎ、論点をずらした政府答弁を「ご飯論法」と名付けた法政大の上西充子教授は「政府の判断は常に正しい、それに異を唱える者は政府に歯向かうやつだ。そういう認識を政府関係者と共有していなければ出てこない表現だと思う。『反政府運動』という表現は」などと指摘した。
ジャーナリストの山口一臣氏も「ヤフーニュース個人」の9日付記事「【日本学術会議の任官拒否問題】共同通信が菅(すが)官邸の世論誘導に加担?」で、「一般の人からすれば、メディアがこの言葉(反政府)を使うときは反政府ゲリラに象徴されるように、『国家転覆』を企てる者という意味にとらえる。『反政府組織』といえば、暴力をもって政体を変えようとする人たちのことだ」などと問題点を述べている。
共同通信社「通常の編集作業の一環です」
新聞記事データベース「日経テレコン」で、全国紙5紙と通信社2社(共同、時事)を対象に、見出しに「反政府運動」を含む記事を過去10年分調べると、22件見つかる。いずれも
「タイで1万人集会=反政府運動、さらに拡大」(時事通信)
「マケドニア、反政府運動激化 EUの対話仲介、ロシアが牽制」(朝日新聞)
「トルコ:与党、地方選勝利 首相、反政府運動に強硬姿勢」(毎日新聞)
「シリア武力衝突、終結の兆しなく 反政府運動2年」(日本経済新聞)
「反政府運動の指導者が帰国 バーレーン」(朝日新聞)
などと国外関連で、国内報道は見当たらない。
記事はその後削除され、別のURLで「官邸、『反政府先導』懸念し拒否-学術会議、過去の言動を問題視か」と題した同様の記事が配信された。「反政府運動」は「反政府先導」に代わっている。訂正した旨は示していない。
共同通信社総務局は9日、J-CASTニュースの取材に、記事を削除した理由を「記事の差し替えなどは適宜行っていて、通常の編集作業の一環です」と、削除ではなく差し替えだったと答えた。
批判については、「コメントする考えはございません」とした。