ホワイトハウス前でトランプ再選を祈るキリスト教徒
こうした中、トランプ支持者たちは今、何を思っているのか。
フロリダ州に住むベス(60代)は、「公正な選挙が行われたのであれば、もちろん、その結果を受け止めるけれど、何を信じていいのか、もうわからないわ」とため息をつく。
ベスをはじめ多くの支持者は、不正があったと感じている。
フィラデルフィアでは5日深夜、トランプ支持者と見られる武装した男2人が、開票所近くで拘束された。
私が投票日の前々日(11月1日)にマンハッタンで出会った男性3人も、「開票が公正に行われるように監視に行く」と話し、銃を持ってきたと明かした。
11月4日に首都ワシントンの「ブラック・ライブズ・マター・プラザ」で、私が出会った夫婦デビーとダニエルは、トランプ氏のために祈りを捧げに、テキサス州ダラスからやってきたという。
2人は祈りながらワシントンの街中を歩いているが、ここホワイトハウス前でも祈りたかったという。
「神が私たち誰もを愛していること、私たち2人がトランプ大統領を支持していることを示すために、フェンスにサインを貼ったけれど、(BLMの人たちに)はがされてしまったのよ。このフェンスはあの人たちのものではないでしょう?」と悲しがる。
そこには数人のキリスト教徒らが別々にやってきては神を讃美する。ある女性が切々と神について語っていると、BLMの活動家らがサイレンを鳴らしたり、耳元でメガホンを使って叫んだりして、妨害していた。
「この人、いつもいるのよ。わざわざここでやらなくてもいいでしょう」とBLMの活動家は私に話す。
ワシントンでは今も、全米各地から訪れる熱心なキリスト教徒たちが、神への讃美を歌い、トランプ氏の再選を祈っている。
11月6日昼、まだワシントンにいるデビーと電話で話した。
「メディアや民主党支持者のトランプに対する嫌悪感は、今もすごいものね。トランプは今、どんな思いでいるのか。もし選挙で不正があるなら、すべて表に出るべき。不正は、それが指導者であろうと、教会であろうとメディアであろうと、顕らかにされるべき。
ただ、法廷に持ち込まれたら、ますます醜いことになってしまう気がする。これからの道は険しい。でも何が起きても、それが神の意思だと思うから、祈り、喜んでいようと思うのよ。今日も素晴らしい天気だから、祈りながら外を歩くわ。でもね、私の『I Love Jesus(イエス・キリストが大好き)』マスクが、この街の人たちには評判が悪いのよね」
明るく声を立てて笑うと、デビーは最後に私に「God bless you.(あなたに神のご加護がありますように)」と言って、電話を切った。
今、ニューヨークは11月6日の夜を迎えている。まもなくバイデンが勝利宣言する可能性も伝えられている。
だが、トランプ氏はそれを認めるのか。今夜も眠れない夜になりそうだ。
(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。