新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに急速に定着したフードデリバリー。米国発祥のウーバーイーツと並んで国内で2大勢力を構成する出前館(東証ジャスダック上場)の株価が2020年10月16日、ストップ高水準となる前日比700円高の3725円で取引を終える局面があった。実に23%もの急騰を招いた要因は、前日の取引終了後に出前館が発表した強気な中期経営計画だった。
中期経営計画は藤井英雄社長がオンライン記者会見で発表した。2020年8月期に103億円だった連結売上高を23年8月期には970億円に拡大させる意欲的な内容で、赤字が続く連結営業損益も23年8月期に黒字に転換させるというもの。そのために20年8月末時点で約3万3000店ある加盟店について、22年中に10万店まで拡大させて営業体制を強化する。発表翌日の東京株式市場では、将来の成長を期待した個人投資家らの買いを集めた。
「実施的な生みの親、育ての親」が退任へ
出前館は2020年3月に無料通信アプリ大手LINEと資本提携を発表し、LINE側が出前館の株式の約6割を取得した。中期経営計画はLINEとのシナジー効果を踏まえて策定されたもので、その一環として、現在は大阪市中央区にある出前館の本店を12月1日付で東京都渋谷区にあるLINEの拠点内に移転させることも盛り込まれた。
投資家は将来性を評価しているが、コロナ禍でフードデリバリーが脚光を浴びた2020年8月期の連結決算は、売上高が前期比54.6%増の103億円と大幅に伸びたものの、本業のもうけを示す営業損益は26億円の赤字(前期は3900万円の赤字)と大きく落ち込んだ。主力の出前館事業はコロナ感染拡大の前から営業体制の拡大に乗り出しており、1年間でデリバリーの拠点数を79%、加盟店数を65%それぞれ増やしたこともあり、オーダー数は31%増えた。その半面、拠点数と加盟店数を増やすための積極的な投資をしたり、出前館の認知度を高めるためにダウンタウンの浜田雅功さんを起用したテレビCMを大量投入したりして経費が膨らみ、赤字の要因となった。
1999年に設立された出前館の事業展開が次のステージに移ったこのタイミングで、「実施的な生みの親、育ての親」(出前館の発表文)である中村利江会長(55)が2020年11月26日の定時株主総会終了後に退任することが決まった。
LINEとソフトバンクグループ
中村氏と言えば、2020年8月にテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」が出前館のウーバーイーツに対する買収提案の観測を報じた翌日、同じ番組のインタビューで買収提案について問われて「うーん、内緒です」と述べた人物(出前館は同日のリリースで、報道に対し「事実無根」「当社が発表したものではない」などと発表)。退任に関する発表文には「中村利江氏の強い希望で当社の経営から退く」と記載されており、1億円以内の退職慰労金が贈呈される方向だ。
買収を巡る真相は藪の中だが、今も水面下で話が続いているとの見方は根強い。米ウーバーはソフトバンクグループ(SBG)の投資先であり、出前館の親会社のLINEはSBG傘下のZホールディングスとの経営統合を2021年に予定している。SBGが結び付ける形でフードデリバリー2強の統合が実現するのか。今後も注目を集めそうだ。