元ヘビー級王者タイソンも高度なジャブの技術を...
この日の井上の左ジャブはスピード、キレともに抜群だった。世界トップクラスのモロニーといえども懐に入ること出来ない。モロニーにしてみれば、左ジャブを警戒してガードを上げれば、隙間のできたボディーに左が突き刺さる。左ジャブを右で叩けば、左フックが飛んでくる。足を止めて中間距離で戦いを挑むにはリスクが高すぎると判断したのだろう。モロニーはアウトボクシングに徹した。
ボクシングにおいてパンチ力がそのままKOに結びつくとは限らない。パンチを当てる技術はもちろん大切だが、いかにフィニッシュブローにつなげるか。そのプロセスもまた重要な要素となる。井上に限らず、世界のハードパンチャーと呼ばれるボクサーはずば抜けたパンチ力を誇る一方で、巧みに左ジャブを操り、そこからKOにつなげるボクサーも少なくない。
驚異的な破壊力を持つパンチで世界を驚愕させた元ヘビー級統一王者マイク・タイソン(米国)も高度な左ジャブの技術を持ったボクサーのひとりだ。タイソンのKOシーンは一撃の印象が強いが、フィニッシュブローに至るまでに左ジャブは欠かせない「要素」のひとつだった。