日銀が「しぶしぶ」デジタル円に着手した背景 課題・リスクあるも自民党は前向きで

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   手元のスマートフォンで「××ペイ」のアプリを起動して、画面に並ぶボタンの一つをタップすると「デジタル円」の操作モードに。両親からの仕送りの入金を確認すると、その一部を昨晩の飲み代を立て替えてくれた友人に送金した――。

   日本銀行が2020年10月9日に発表した中央銀行デジタル通貨に関する「取り組み方針」から透けて見えるのは、こうした近未来の日常だ。日銀は「現時点で発行計画はない」と及び腰だが、待ったなしの状況に追い込まれている。

  • デジタル円の行方は…(イメージ)
    デジタル円の行方は…(イメージ)
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消極的な姿勢もにじむが...

   日銀が想定しているデジタル通貨は、既に存在するチャージ式の電子マネーのようなものだ。スマホアプリやICカードで扱うことができ、コンビニなどの小売店で商品を購入する代金として使える。電子マネーは1回やり取りすると決済されて円に戻るが、中銀デジタル通貨はそのまま流通していく点が最大の特徴。仮想通貨にも利用されている暗号技術「ブロックチェーン」を活用することになりそうだ。日銀はデジタル通貨を実際に発行しても、現金の供給は「需要がある限り」責任を持って続けていくと明確化している。

   ただ、課題は山積している。超低金利が続いている状況で日銀が発行するデジタル通貨を利用できるようになれば、なにしろ日銀は民間銀行のように経営破綻するという可能性はゼロで、しかも銀行より送金手数料が安くなるだろうから、資金を銀行に預ける意味がなくなる。そうなれば資金が銀行預金からデジタル通貨へ移って外見からは分からない「取り付け」が起き、金融システムに混乱を招きかねない――という指摘だ。

   また、地震や台風で甚大な被害が生じて停電が長引けば、現在のスマホ決済サービスと同様に使えなくなるという弱点もある。

   日銀は2021年度の早い時期にシステム的な実験環境を構築して、デジタル通貨の基本機能(発行、流通など)を検証する「フェーズ1」を始める計画だ。その後は「フェーズ2」を経て、民間事業者や消費者が実地で参加する「パイロット実験」も想定する。ただし、取り組み方針では、パイロット実験の実施の条件を「さらに必要と判断されれば......視野に入れて検討していく」と表現しており、極めて消極的な姿勢がにじむ。

中国が「デジタル人民元」前向きで

   こうしたアクセルとブレーキを同時に踏むようなスタンスは、日銀の置かれた微妙な立場に起因していると言えよう。ブレーキを踏むのは、デジタル通貨には高いレベルの信頼性や安定性が求められて技術的な課題も多く、実際に発行した後には何が起きるか分からないからだろう。

   それでもアクセルを踏むのは、前のめり気味な政府・自民党への配慮が見え隠れする。日銀法47条には「日本銀行券の様式は、財務大臣が定め、これを公示する」と明記されており、自民党内には「中銀デジタル通貨の発行は『銀行券の様式』に関することであり、政府に決定権がある」といった見方も浮上する。現に政府が7月に閣議決定した「骨太の方針」には、中銀デジタル通貨を「検討する」という一文が盛り込まれた。

   世界で中銀デジタル通貨に積極的なのは中国で、中央銀行である中国人民銀行は各地で「デジタル人民元」の実証実験を既に進めている。国家以外でも、米フェイスブックが2019年6月に発行計画を表明したデジタル通貨「リブラ」は、スマホがあれば国境を越えて簡単に送金ができるため、国際送金の手数料の高さに不満を抱いている人々や、銀行に口座を開設できない途上国の人々が飛び付く可能性が高い。

   デジタル人民元が使用される範囲は中国国内だけに限定される保証はなく、こうしたデジタル通貨が世界中で普及すれば、各国の政府や中央銀行によるコントロールが効かなくなり、通貨主権を脅かしかねない。中銀デジタル通貨について、日米欧が共同で研究を進めたり、中国やリブラを牽制する共同声明を出したりするのは、こういった背景があるからだ。

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