中国が「デジタル人民元」前向きで
こうしたアクセルとブレーキを同時に踏むようなスタンスは、日銀の置かれた微妙な立場に起因していると言えよう。ブレーキを踏むのは、デジタル通貨には高いレベルの信頼性や安定性が求められて技術的な課題も多く、実際に発行した後には何が起きるか分からないからだろう。
それでもアクセルを踏むのは、前のめり気味な政府・自民党への配慮が見え隠れする。日銀法47条には「日本銀行券の様式は、財務大臣が定め、これを公示する」と明記されており、自民党内には「中銀デジタル通貨の発行は『銀行券の様式』に関することであり、政府に決定権がある」といった見方も浮上する。現に政府が7月に閣議決定した「骨太の方針」には、中銀デジタル通貨を「検討する」という一文が盛り込まれた。
世界で中銀デジタル通貨に積極的なのは中国で、中央銀行である中国人民銀行は各地で「デジタル人民元」の実証実験を既に進めている。国家以外でも、米フェイスブックが2019年6月に発行計画を表明したデジタル通貨「リブラ」は、スマホがあれば国境を越えて簡単に送金ができるため、国際送金の手数料の高さに不満を抱いている人々や、銀行に口座を開設できない途上国の人々が飛び付く可能性が高い。
デジタル人民元が使用される範囲は中国国内だけに限定される保証はなく、こうしたデジタル通貨が世界中で普及すれば、各国の政府や中央銀行によるコントロールが効かなくなり、通貨主権を脅かしかねない。中銀デジタル通貨について、日米欧が共同で研究を進めたり、中国やリブラを牽制する共同声明を出したりするのは、こういった背景があるからだ。