支持者に「自分を代弁してくれる」と感じさせる人間
集会の間、支持者らは「God bless Trump!(トランプに神の御加護を!)」と連呼したり、「メディアはあなたが嫌いなんだよ」などと声をかけて連帯を示したりしていた。
集会前に一時、並んでいた列を離れた私は、友人デビーとはぐれた。警備員に「列の最後尾に並び直さなければ、逮捕する」と言われ、仕方なく並び直した。
集会後に再会するとデビーは、「誘ってくれてありがとう。楽しかった」と何度も私にお礼を言った。
「支持者の前に顔を出したら、トランプは15分くらいで次の会場に移動するかと思ったら、 1時間半、立ちっぱなしであれだけエネルギッシュに話し続けるなんて。74歳で病み上がりなのに、あのバイタリティに驚いたわ。
テレビで見るトランプは、攻撃的で侮辱的でとても不快。そういう部分が意図的に強調されているのがわかった。実際に会ってみると、彼のいい部分が見える気がする。一緒に食事しながら、会話してみたくなるような」
それでも、「自分たちさえよければいいという、白人至上主義の思想を感じる瞬間もあった」という。
民主党が進める低所得者の郊外への移住計画について、「民主党主導の都市は犯罪が多く、それは郊外にも広がる恐れがある」と反対していると訴えた時だ。
その翌々日、デビーが電話で私に言った。
「トランプは誇張も多かった。それなのに、見方がちょっと変わった理由がわかった。ベンに似ているのよ」
ベンは彼女の夫だ。
「気さくでフレンドリーで、タフガイで。冗談好きでポリティカリー・コレクトじゃなくて、思ったことをずけずけ言うタイプ。だからきっと、娘たちもみんな、トランプが好きなんだわ」
トランプを批判する人たちは、まさにそれが「unpresidential (大統領にふさわしくない)」と感じている。
「支持者のことすら本当はどうでもよくて、大事なのは自分。自分を認めてもらうために、相手をほめそやしていい気にさせているだけ」「ラストベルトで苦しむ白人の気持ちが、トランプにわかるわけがない」との批判もある。
それでも、「トランプは自分と似ている」「自分を代弁してくれる」と支持者に感じさせるところが、彼の「魔力」なのだと思った。
(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。