岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
ニューヨークで「トランプ支持」大集会の異常事態

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「黒人を守ってあげたい」というアジア系女性

   トランプ反対派は警官たちにも食ってかかり、 BLMデモで何度も耳にする「No cop(おまわり), no KKK, no fascist, USA!」を繰り返した。

    1人の黒人男性が「Fucking police!」と叫びながら、一列に並ぶ警官たちの前で、トランプ支持者から奪った警官支持の大きな旗を、ずっと足で踏みつけていた。

   警官らが移動するたびにそこへ割って入り、警官と激しく言い合いしているアジア系の若い女性が目に留まった。

   彼女が1人になった時、「何を言い合っていたの?」と声をかけると、静かな声で話し始めた。

「黒人やヒスパニックはいつも、警察から残虐な目に遭っているの。警察は暴力と白人至上主義の象徴。トランプを支持する人たちも、白人至上主義者。私は黒人が逮捕されないように、守ってあげたいの」

   「何がきっかけで、そう思うようになったの?」と聞くと少し間を置いて、答えた。

「私自身が家庭で虐待されて育ったの。だから、自分には力になってあげられると信じている。できることがあるとしたら、今しかない」

   女性は突然、「ごめんなさい、行かなきゃ」と言うと、勢いよく警官らの中に飛び込んで行った。黒人男性が逮捕されたのだ。

   しばらくすると、警官らが誰かを取り押さえようとしていたので、近寄った。

   さっきのアジア系の女性だった。

   手を後ろに回された姿で、私と目が合うと、悲しそうに微笑んだ。

   その2日後、たまたまトランプタワーの前を通ると、道路には再び「BLACK LIVES MATTER」の黄色い文字が、鮮やかに浮かび上がっていた。

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

 
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