日本初の西洋・近代美術館として知られる大原美術館(岡山県倉敷市)は、運営資金確保に向けたクラウドファンディング「一般公開なくして大原美術館ではない。作品との出会いを守るご支援を。」を2020年10月26日に開始した。
新型コロナウイルスによる長期休館や再開後の入館制限により、運営経費の8割を占める入館料収入が大きく減少した。美術館の担当者は「90年の歴史で一番厳しい状況」と強い危機感を募らせる。
「出来る限り」の自助努力も...
大原美術館は1930年に日本初の西洋・近代美術館として開館。歴史的な街並みで知られる倉敷・美観地区の中にあり、ギリシャ神殿風の建築は地区のシンボルにもなっている。館内にはクロード・モネ「睡蓮」、エル・グレコ「受胎告知」などの名画が展示されている。
ことし開館90周年を迎えた美術館は、大型の特別展やイベントの開催を予定していた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響により4月11日から136日間の臨時長期休館に。8月25日に分館を除き再開館したが、現在も入館制限の実施や、学校団体の受け入れ中止などを余儀なくされている。
クラウドファンディングサイト「READYFOR」のページによれば、入館料収入が運営経費の8割を占めるという大原美術館。年間来館者数30万人が「運営を維持する最低ライン」だというものの、今年度は臨時休館や入館制限の影響で、最多でも約5万人の来館しか見込めないという。
J-CASTニュースが10月26日、大原美術館・学芸統括の柳沢秀行さんに取材すると、こうした状況を打開するため、大原美術館では経費の削減や融資の獲得に向けた交渉など「出来る限り」の自助努力を続けてきたという。しかし、それでも入館料の代替にはならないとし、現在は「(運営的に)90年の歴史で一番厳しい状況」だと語る。
「日々の衣食住を維持することもままならない」
クラウドファンディングページの中でも、大原美術館は今後の運営に向けて強い危機感を募らせている。
「代替の収入確保が難しいなか、大原美術館にとっての現状は、日々の運営体制の継続が非常に厳しい・・・すなわち開館継続が危うい一大危機を迎えています」
「現在の大原美術館は、家庭に例えれば、この先日々の衣食住を維持することもままならない状況です」
柳沢さんによると、もともとは、同じ倉敷・美観地区内にある、大正時代に建てられた旧中国銀行の建物を美術館に改築する計画の中で、クラウドファンディングの実施を検討していた。しかし、美術館自体の運営が厳しくなったこともあり、方針を転換。美術館の運営資金を募ることとなった。
美術館はクラウドファンディングのページ内で「皆様のご支援により、まずは作品のための適切な保存環境を維持したうえで、なによりも、作品との出会いの場を提供するために『開館を続ける』ことを目指します」と宣言。開館継続に向けて寄付を呼びかけた。目標金額は1000万円で、集まった金額は2021年内の運営資金に充てられる。
すでに80万円近い寄付も
10月26日18時時点で、すでに80万円近い寄付が集まっている。寄付者からは「いつかまた倉敷に行き名画を鑑賞できる日を楽しみにしています」「今後も変わることなく、今までと同じ素敵な佇まいで、一般公開され続ける大原美術館でありますように!」などのコメントが寄せられている。
こうした声に、柳沢さんは「これまで、『顔が見える方』からの寄付というのは美術館の貴重な財源となってきた。今回のクラウドファンディングでは、わたしたちが知らないところで美術館を愛してくれている方からも予想以上の応援をいただいている。本当にありがたいです」と語る。この日は休館日だったが、多くの職員がこうしたコメントを目にして「力をもらった」という。
寄付金額は3000円からで、1万円以上のコースには家にいながら大原美術館の展示を「VR」(仮想現実)体験できるものもある。寄付期間は12月25日まで。柳沢さんは「ぜひ、大原美術館を支えてください」と寄付を呼びかけている。
【クラウドファンディングを開始いたしました】
— 大原美術館 (@OharaMuseum) October 26, 2020
大原美術館はクラウドファンディングで皆様からのご支援を募っています。目標金額は1000万円。でもいくらあっても助かります。長期休館を経ても、皆様と作品との出会いを守るため、どうかご支援ください。https://t.co/DSKrXS7ed0