第203回臨時国会が2020年10月26日に召集され、菅義偉首相が同日午後の衆院本会議で、首相就任後初となる所信表明演説を行った。菅氏は、自民党総裁選で掲げた不妊治療への保険適用や携帯電話料金の引き下げ、「デジタル庁」の創設、新たに掲げた「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」目標など、具体的な政策を列挙。大枠の理念が先行した安倍晋三前首相とは対照的な所信表明演説となった。
外交面では、中国には「主張すべきはしっかり主張」、韓国には「適切な対応を強く求めていく」と言及。19年の所信表明演説では、中国について「日中関係を新たな段階へ押し上げていく」、韓国に「国と国との約束を遵守することを求めたい」と言及していた。中国公船による沖縄県・尖閣諸島沖の接続水域への侵入常態化、「香港国家安全維持法」(国安法)の施行、元徴用工をめぐる判決の問題、輸出管理強化に対する韓国側の反発など、日本にとっての懸案が増えたことが影を落としているとみられる。
韓国との関係は「格上げ」も「不健全」
菅氏は演説の終盤で外交に言及。中韓について、それぞれ
「中国との安定した関係は、両国のみならず地域および国際社会のためにきわめて重要です。ハイレベルの機会を活用し、主張すべきはしっかり主張しながら、共通の諸課題について連携してまいります」
「韓国は、きわめて重要な隣国です。健全な日韓関係に戻すべく、我が国の一貫した立場に基づいて、適切な対応を強く求めていきます」
と述べた。
これに対して、19年10月4日の安倍政権の所信表明演説では、中国について
「日中新時代を切り拓きます。来年の桜の咲く頃に、習近平国家主席を国賓としてお迎えし、首脳間の往来だけでなく、経済交流、青少年交流など、あらゆるレベルでの交流を拡大し、日中関係を新たな段階へ押し上げてまいります」
と言及していた。コロナ禍の影響もあって習近平氏の来日や「日中関係を新たな段階へ」といった前向きな表現が減り、「主張すべきはしっかり主張」という、両国に利害の対立があることを示す文言が登場した。
韓国については、「韓国は、重要な隣国であります。国際法に基づき、国と国との約束を遵守することを求めたいと思います」。「重要な隣国」が「きわめて重要な隣国」に格上げされる一方で、「健全な日韓関係に戻すべく」という表現を盛り込んだことで、今の日韓関係が不健全なことを表明し、「適切な対応を『強く』求めていきます」という強調表現も加わった。
2020年1月の施政方針演説でも前向きな表現多かった
20年1月20日の施政方針演説でも、比較的両国については前向きな表現が多かった。
「日本と中国は、地域と世界の平和と繁栄に、共に大きな責任を有しています。その責任をしっかり果たすとの意志を明確に示していくことが、今現在の、アジアの状況において、国際社会から強く求められています。首脳間の往来に加え、あらゆる分野での交流を深め、広げることで、新時代の成熟した日中関係を構築してまいります」
「韓国は、元来、基本的価値と戦略的利益を共有する最も重要な隣国であります。であればこそ、国と国との約束を守り、未来志向の両国関係を築き上げることを、切に期待いたします」
20年10月26日午後の加藤勝信官房長官の記者会見では、演説の日韓関係についての書きぶりの変化に関する質問も出た。加藤氏は日韓関係について
「安倍政権から菅政権にかけて一貫している」
とした上で、
「演説全体のバランス、最近の外交情勢、そういうものを総合的に勘案して、今回、こうした表現になった」
と述べるにとどめた。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)