芸能事務所「アミューズ」が2020年10月20日に行った発表がネット上で話題を呼んでいる。
同社はウェブサイトで複数のURLを提示しつつ、「以下の記事、投稿、動画は根拠のないデマ情報をもとにしたWebサイトの一部です。閲覧されることによる収益を目的としたものもありますので、くれぐれもお気を付けください」と注意喚起を行っている。提示されたURLは動画サイトのもののほか、個人サイトのものも含まれているが、その内容は、いずれも、同社に所属していた故・三浦春馬さんについて、根拠が不明確な主張を行うものとなっているのが特徴だ。
CIA、イルミナティ...相次ぐ陰謀論
これらのサイトの共通点として挙げられるのは、三浦さんの死について、「自殺とは思えない」などと憶測しつつ、その死について、何らかの隠された事実があるのではないかとする主張を展開。最終的に三浦さんの死に関する報道について、「真実を隠している」という趣旨の結論に達しているのだ。
同様の主張は他のサイトにも見られ、中には「三浦春馬はCIAに暗殺された」「ODAの秘密を知っていたがゆえに消された」「イルミナティからの命令に背いた」......といった目を疑う主張を行っているものすらある。
これらのサイトのコンテンツは、それこそ、「陰謀論」の域を出ないものばかりなのだが、それでもあえて、今回、アミューズがこのような注意喚起を行った理由として、昨今のネット上の「惨状」が考えられる。
2020年は、有名人の突然の死が相次いだが、ネット上では「マスコミは自殺と報道しているが、その真相は他殺である」「闇の組織が暗殺した」といった、それこそ荒唐無稽な主張を行う者が一定数、その死が報道されるたびに出現。さらに、これまた一定数の層がこれらの「言説」に食いつき、SNSで拡散させるという「現象」が少なからず見られたのだ。
特に三浦春馬さんのケースでは、その拡散は侮れないものがあり、否定する形ではあるものの、「週刊新潮」(10月22日号)も「他殺説」に言及したほか、Change.orgでは「再捜査」を求め、1万件を超える署名が集まっている。
日常会話で出てきたら、それこそ「一笑に付す」内容であるにもかかわらず、ネット上ではそれなりの「感染力」を発揮する、これら「有名人の死が報道されるたびに飛び出す陰謀論」だが、そもそも、なぜこのような「陰謀論」は一定の支持を集めてしまうのか。
J-CASTニュースはその謎を解明すべく、複数の専門家に分析を依頼。分析の対象としたのは、「陰謀論を主張する者」と「その陰謀論を拡散させる一般ユーザー」だ。
人は「悲しみ」を「驚き」に変えて耐えようとする
まず、J-CASTニュース編集部は経営コンサルタントで心理学博士の鈴木丈織氏に対し、これら2つの勢力の心理状態について分析を依頼した。
まず、鈴木氏は三浦さんをはじめとする有名人が死去したとの報道に関連して出てくる、これらの「陰謀論」は「妄想の類」と斬り捨てつつ、以下のように説明した。
「『著名な人が突然亡くなる』という現象は、その『著名な人』の個人的事情が一般人には知りえないところからして、多数の『埋めることが出来ない疑問点』が発生します。人間はとかく『因果関係』を知りたがる生き物であり、ゆえに、この『埋めることが出来ない疑問点』というのは心理的に大きな負担となります。そのようなな、負荷がかかった状態の精神には、例え荒唐無稽な内容であっても、それなりに真実を突いているように見えてしまうものなのです」
さらに、「著名人の死」という、人々の心に動揺をもたらす点も、「陰謀論」が受け入れられる土壌があると指摘する。
「三浦春馬さんをはじめ、2020年はたくさんの著名人が突然の最期を迎えましたが、『埋めることが出来ない疑問点』という要素に加え、この『悲しみ』という要素も精神に大きな負荷をかけます。『悲しみ』という負荷がかかると、人間はその『悲しみ』を『驚き』に変えて負担を軽減しようとします。そのような時に悲しみを驚きに変える『変換装置』が、『陰謀論』なのです。悲しみを驚きに変える威力は強ければ強いほど良いので、陰謀論はとにかく奇抜さが強いものが好まれるのです」
さらに、鈴木氏は、これら陰謀論を求める一般人の心理に付け込もうとする人物が、「陰謀論」の発生源となっていると指摘する。
「承認欲求が人一倍強いにもかかわらず、日常生活ではそれが満たされていない人の中には、大きなニュースが飛び出した際に、『その話題に関する言説を発することでリーダーシップを握って承認欲求を満たそう』とする者が一定数います。著名人が突然亡くなるというのは大きなニュースですから、そのニュースの『関連情報らしきもの』を発することで話題の主導権を握り、それでリーダーシップを発揮できたと錯覚し、ガス抜きをしているのです。先程も申しました通り、世間の人々は悲しみを驚きに変えて著名人の死を乗り切ろうとしていますから、そのような鬱屈した思いを抱えている人は世間の需要に合わせて、非日常的で突飛な内容の作り話を繰り出してくるのです」
「真に受けた」層だけが拡散主体ではない
続けて、J-CASTニュースはITジャーナリストの井上トシユキ氏に、やはり、「陰謀論を主張する者」と「その陰謀論を拡散させる一般ユーザー」についての分析を依頼。すると、井上氏はこれら両者には「面白がりたい」という要素が共通していると指摘した。
「一般的なネットユーザーの中には、『陰謀論を真に受けてしまって拡散させる』という層もある程度は存在するとは思いますが、やはり、陰謀論を拡散させている主たる層は、『ヨタ話を他者に伝えて面白がる人』と『ヨタ話を話半分に聞きつつ、拡散させて面白がる人』だと思います。まさに、共犯関係が成立しているわけですが、ネット上では、一昔であれば『2ちゃんねる』で、『うわさ話のネット大喜利』とでも言えるものが盛んに行われていたのです」
加え、井上氏はSNS全盛の時代特有の「拡散しやすさ」を指摘する。
「2ちゃんねるの全盛期では、『それらしい雰囲気を備えた作り話』はコピペとして拡散される一方で、『それらしい雰囲気を持たない作り話』は拡散されなかったのです。要は、出来損ないの陰謀論はふるいにかけられた上で消滅していたのですが、SNS全盛の現在では、荒唐無稽すぎる出来損ないのものまで何の規制も掛けられることなくまき散らされてしまっています。このため、陰謀論の本数そのものが増えてしまっているという状況です。そして、とどめが『まとめサイトの発達』。これら、ネット上に大量に『散布』された陰謀論を拾い上げ、ある意味、『見やすい形』でまとめてしまっていますので、荒唐無稽な情報の拡散が止まらないのです」
また、これらを指摘した上で、井上氏は以下のようにも述べた。
「『話に尾ヒレが付いていく』というのは、ある意味ではクリエイティビティーの発露ではあるのですが、やはり、『陰謀論』は常に誰かを傷つけます。ゆえに、『思いついた陰謀論を誰かに話したりネット上に書き込む』『見聞きした陰謀論を拡散する』という行為は厳に慎むべきなのです」
(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)