公選法違反(買収)の罪に問われている参院議員・河井案里被告の公判をめぐり、夫の克行元法務大臣が"ネット工作"を選挙戦で仕掛けていたことが明らかとなった。
SNS上では「陰謀論の類かと思っていた」と驚きの声が相次いでいるが、具体的にはどのような手口なのか。専門家に聞いた。
架空の人物名義で対立候補を批判
「ネット工作」疑惑は、2020年10月19日の案里被告の公判で浮上した。
中国新聞などによれば、検察側の供述調書では、克行被告が選挙プランナーを通じて知り合ったネット業者に依頼し、自身への批判的な書き込みを検索結果に表示しにくくしたり、一方で好意的な書き込みは表示しやすくしたりしたという。いわゆるSEO(検索エンジン最適化)や逆SEOと呼ばれる手法だ。
また、案里被告が当選した19年の参院選では、架空の人物を名乗ったブログ記事で、対立候補のイメージ悪化を狙った投稿をしたという。
公判内容が報じられると、ツイッター上では「ネット工作って陰謀論の類かと思っていたけど実在するんだな......」「これほぼ間違いなく、彼だけでもなければこれだけでもないよね」と驚きや失望の声が相次いだ。
ハッシュタグ運動、画像加工...
選挙コンサルティング会社「ジャッグジャパン」の大濱崎卓真社長によれば、選挙戦でのネット工作は、主にネガティブキャンペーン、ポジティブキャンペーンに二分されるという。
「前者は、自分の応援している候補者が『これだけ素晴らしい』とポジティブな面を訴えていく方法、後者は対立候補を貶める方法です。ネガティブキャンペーンを政党、政策単位でなく、特定の候補者に対して行うのは、アメリカならまだしも日本では少ないケースだと思うので、河井先生の件は衝撃的でした」
具体的な手法については「やはりネットの匿名性を利用した方法が一般的で、ツイッターやブログ、まとめサイトが多い印象です。ツイッターであれば複数の匿名アカウントを作れて拡散もしやすいので、例えばハッシュタグ運動が考えられます。まったく同じ時間に同じハッシュタグを投稿すればトレンドに載りやすいという傾向など、左も右も攻略法がわかってきていますから。アルゴリズムを逆手に取った手口が最近出てきています。ほかにも、画像の加工や自動投稿のボット作成といった技術は専門家でなくても多少詳しい人であればできる環境にあるので、たとえば画像の一部分を消して昔のものを現在あったかのように加工するなど、そういった手口はよく行われているでしょう」(大濱崎氏)
法的問題は?
選挙コンサルタントで行政書士の戸川大冊氏にも見解を求めると、豊富な資金力を有する与党を中心に、メディア戦略の一環として行われているという。河井氏の手法も「官邸直輸入」ではないかと推測する。
法的な問題はないのか――。「選挙公示後に、お金を払って特定の候補者を応援するような書き込みを依頼していたとすれば、運動員買収(公選法違反)となる可能性があります。公示前であれば、政治活動の範囲内で行うことは可能ですが、この場合は政治資金収支報告に宣伝事業費として記載の必要があり、そうでなければ政治資金規正法違反となるでしょう」(戸川氏)
しかし、「ネットでの行為としてのプロパーな規制がない」とも付け加える。「アメリカ大統領選ではフェイスブック、ツイッターが問題視されており、日本でもネット工作への直接の法規制を議論すべきでしょう。フェイクニュースの問題でも、政治家自ら拡散するケースも増えており、その必要性を感じます」
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)