観光支援事業「GoToトラベル」の事務局への委託費が高額だとして問題になる中、野党は事務局に大手旅行代理店から出向している社員の人件費が高すぎるとして追及を強めている。
「週刊文春」10月22日号が「GoToトラベル事務局は 仕事ナシでも日当4万円」と題した記事を掲載したことをきっかけに、10月19日には国会内で開かれた野党合同ヒアリングで観光庁の担当者が追及を受けた。
観光庁は平均して1人あたり4万円の支払いを予定。この人件費は出向元の会社に支払われるが、これを社員が出向元の給与と「二重取り」するとの誤解に基づいた追及も相次いだ。企業が他社に従業員を派遣する際は月に100万円以上かかることも多く、1日4万円が「高すぎる」とする野党の指摘とは逆に「良心的」だとの指摘もある。
観光庁担当者に「何をおっしゃっているのか分からない」「コミュニケーション難しい方」
観光庁が野党側に開示した資料によると、7~8月に約7000人が事務局に出向したと想定し、直接人件費として約126億円を支払う予定だ。内訳を見ると、1日の単価が最も高いのが59人いる「事務局長・事務所長」で、6万9800円。次に多いのが213人いる「部長級」の5万5300円。1日4万600円の「係長級」の人数が最も多く、2522人いる。1人あたりの平均単価は約4万円で、月に20日勤務したと仮定して、月額約80万円が出向元の企業に支払われる計算だ。
出向した社員は、政府からではなく出向元の旅行会社から給料を受け取るが、それに加えて、国が支払う人件費も受け取るという誤解に基づいた追及が相次いだ。例えば、立憲民主党の原口一博衆院議員と観光庁の担当者の間では、次のようなやり取りが展開された。
原口氏: Aという会社から来てるとしますよ、Aという会社の給与はまるごと来るわけで、それにプラス事務局やっていただいているから、こういうお金をプラスしているんじゃないですか、と。違うんですか?じゃあいらないじゃないですか、人件費120何億。
観光庁担当者: その方に対しては、それぞれの親元の会社から給与がいく、と。それは何のために支払っているかというと、その方は出向という形で事務局で働いて事務局の業務をしていただいている。その分について、私どもは、事務局を通じて会社にその分を支払っていくということなので、例えば個々の事務局長なり事務所長なりが二重に取っているということではない。
原口氏: 僕は『二重』って一言も言ってないですよ、二重って言ってるんじゃなくて、その方々は会社からお給料も出ているし、国庫からもこうやってお給料が出ていますよね。普通のことを言っているんです。それは二重じゃなくて、国のために働いた分を、代弁してるわけでしょ?
観光庁担当者: 事務局の職員さんについては、国費は直接流れない。あくまで私たち事務局を通じて各会社にお支払いするので、個人の方が、事務局職員の方が会社から給料をもらい、そして観光庁から人件費相当分をもらう、ということはないということを、ちょっと言葉足らずで恐縮ですけれども、説明させていただいている。
原口氏: 何をおっしゃっているのか分からない。じゃあ、この方々には、国民の税金は入っていないということでよろしいですね?
観光庁担当者: これはあくまでも計画上の積み上げの数字を、ということですので...。
原口氏: あなたね、非常にコミュニケーション難しい方なんですけれども...。簡単なことを聞いてるんですよ。
「(日額)8000円ぐらいなんですよね、一生懸命働いても。これが4万5000円?もらえる」
立憲の黒岩宇洋衆院議員は、コロナ禍で給料が減っている人が多いとして、
「1日フルに働こうが働くまいが、よく分からない中で、やっぱり1日平均して4万5000円、これね、国民からすればね、なんでこんなもん...。悪いけど、このコロナに乗じた焼け太りみたいに聞こえるわけですよ。4万5000円、これは相当な額だと思いますよ。違いますか」
と主張。観光庁側が「基本給相当額以外の諸手当、賞与相当額、事業主負担金というものを全て含んだ金額」だという説明をしたが、
「事務局長級だと単価7万円でしょ?そうするとね、20日間で1か月140万。1年間で1700万ですよ。その中で事業主負担分、保険とか。いいとこ200万円ぐらいじゃないですか?そうするとね、結局この人はね、年収1500万ということで換算しているわけですよ。年収1500万というのは、これ、やっぱり相当なもんでしょ?」
などと改めて単価を疑問視した。
立憲の柚木道義衆院議員は、「コロナ失業」が相次いでいることを指摘し
「そういう中で、例えば今、東京の最低時給...1013円でしたっけ?(日額にすると)8000円ぐらいなんですよね、一生懸命働いても。これが4万5000円?もらえる」
として、派遣社員や契約社員について、どういう形で求人を出したかや、求人票の具体的な内容を開示するように求めた。観光庁の資料では、派遣社員・契約社員が単価2万7900円で572人出向するとの見通しが示されている。柚木氏は
「なぜならば、『こんな高額バイトどうぞ』みたいな求人出さないと、2万7900円でしょ?572人。殺到しますよ?ほんと。『雇ってくれ!』って」
などと話した。
立憲の山井和則衆院議員も、「GoToトラベル」の委託費に2000億円近くかかっていることに問題意識を持っていることを紹介した上で、
「その一例として、原口さんがご指摘になったように、言葉は悪いけれど、旅行代理店から給料をもらっている上に、これももらうとなると、外から見れば二重取りみたいな話に思えてしまうし、二重取りの上に、単価もかなり高いんじゃないの、という気がする」
と話した。
城繁幸氏「その程度で従業員を派遣してくれる会社は良心的」
こういった「二重取り」をめぐる誤解もさることながら、「1日4万円=1か月80万円」という単価は「高すぎる」のか。J-CASTニュースの「会社ウォッチ」で「城繁幸からの伝言 29歳の働く君へ?いまからでも遅くない!」を連載している人事コンサルタントの城繁幸氏は、ヒアリングでの野党議員について
「派遣元企業へ支払う総額である『日当』を、従業員に支払う『日給』と明らかに混同していたのではないか」
と指摘した上で、80万円という金額は、むしろ「良心的」だとみている。
「日当には派遣元企業がその従業員を雇用するのにかかる社会保険料や各種手当も含まれるため、だいたい日給の2倍程度になります。最大7万円、平均4万円という水準ですが、中堅のSE派遣でも月に100万は普通であり、事務系の社員でも80万円はとりたてて高いとも思えない水準です。筆者はむしろその程度で従業員を派遣してくれる会社は良心的なのではないかとすら感じました」
なお、ヒアリングで立憲の議員とは違った角度で追及していたのが共産党の高橋千鶴子衆院議員だ。業務内容を説明する観光庁担当者に対して
「だったら事務所長とか部長とか、偉い人いらないんじゃないの?59名とか部長213名とか、足手まといなだけですよね」
と指摘した。単価そのものに対する批判に疑義が出ていることを受けて、追及の焦点が単価の高い管理職の配置のあり方にシフトする可能性もある。
原口氏も10月21日朝に公開した動画で、高橋氏と同様の主張を展開している。
「観光庁が出してきた資料を見て、驚いたわけですよ。59人の事務所長、部長級が何と213人ですよ。皆さんの会社に、部長が213人いる会社、ありますですかね?それからですね、課長級が2315人ですよ?2315の課がある会社って、どんな会社ですか。とてつもなくデカイ会社じゃないですか。それかけるの、一人あたり1日の単価が高い方が6万9000円で、平均で4万円を超える、と。それはいくら何でもおかしいでしょ?ということを言っているわけですね」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)